業務員用階段


 さっきのお話に出てきた階段で思い出したのでもう一話。


 業務員階段は、さっきも言ったが基本的に設備員、清掃員。例外として急ぎの用のある医者や看護師が利用する。


 なので、病院に入院している患者さんが利用することは、ほぼない。


 と言っても広い病院内で迷子になってしまい、階段があったので使う。

 そういう患者さんもたまにいる。


 あの一件以来この階段を使うのは少しだけ怖かったが、僕はその日も深夜の機械点検のために地下へ降りていた。


 公衆トイレなどの壁に落書きで、「右見ろ」だとか「〇〇参上」などの落書きを見たことはないだろうか?


 僕は降りている階段の壁にそんな落書きがしてあるのを見つけた。


「生きたい」


 壁にはそう書かれていた。

 僕は対して気にも留めずにそのまま地下へ降りた。


 別の日。

 

 再び深夜の点検のために階段を使用した時に、そういえば前に変な落書きがしてあったな、と思い出して落書きのあった場所を見てみる事にした。

 前回、「生きたい」と壁に書かれていた落書きは文字が追加されていた。


「あなたは

 生きたい」


 壁には「あなた」という文字が追加されて、あなたは生きたい?とこちらに尋ねるかの様な文になっていた。

 しかし、僕は暇を持て余した患者さんのイタズラだろうと思い、その日の業務を進めた。


 また別の日。


 あれから少しだけ気にして通るたびに見ていたが、「あなたは生きたい」以降、落書きの文字は追加されていなかった。

 

 僕はイタズラをしていた患者さんが退院したのかな?と深く考えずに地下の機械室前に向かった。

 節電のため深夜は真っ暗な地下2Fで、機械室のドアノブを回そうとした時、ふと、ドアの横の壁に何か書かれているのを見つけた。


「ねぇ」


 ひらがな二文字で「ねぇ」と書かれていた。

 少しだけ怖かったが、別段何かが起こったわけでもなし。

 もしかすると、僕以外の職場の誰かが書いたんだろう。

 そう思う事にして、機械室へ入った。


 点検が終わり、あとは仮眠室に戻って朝まで寝ていれば終業時刻だ。

 そう思って、地下を後にしようとした僕の背後から女性の声が聞こえた。

 

 ただ、この女性はおそらくこの世の者ではない。


 僕がそう思った理由。

 それは、その女性の声が、早送りをしているDVDの映画内でセリフを話している俳優みたいに、キュルキュルという音を伴っていたからだ。

 僕が直立不動で後ろも振り向けずにいると、再び背後から女性の声がしてきた。


「ねぇ」


 僕は後ろも振り向かずに足を早めて地下を抜け、仮眠室のベットにダイブして、そのまま朝を迎える事になった。

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