病院の夜勤をしていた時の話
ビルメンA
夜勤生活の始まり
深夜の病院。
このワードだけで怖い話の定番と言える。
僕も最初、病院で夜勤をすることになった時は、そんな言い知れない恐怖を感じながら一人、病院の片隅にある6畳ほどの設備員仮眠室で眠れない夜を朝まで過ごしていた。
しかし、1か月もそんな生活を続けていても恐怖体験などには一切遭遇しなかった。僕はそんな事もあって、少し油断していたのかもしれない。
その日は、夜間の機械点検を行うため業務員用階段で地下2Fにある機械室へ向かっていた。
時刻は深夜2時。
しーんと静まり返って照明も最低限に抑えられた薄暗い階段を、目的の地下2Fにある機械室まで階段を使い、これから降りていこうとした時だ。
上の階の階段から誰かが降りてくる足音が聞こえた。
業務員用階段は日中なら、急いでいる医者や看護婦なども利用する事はあるが、基本的に設備員や清掃員といった職種の人しか利用しない階段となる。
しかし、深夜でも緊急の手術などが入り、急いで手術室へ向かわなければならない医者などが利用するのを、この1か月の間に何人か僕は見ていた。
「今回もそういう人なんだろうな」と僕は降りてくる人物の姿を見てやろうと、階段を下りていた足を止めて立ち止まる。
そして、これから階段を下りてくるであろう人物を待った。
……おかしい、足音が聞こえているのに人の姿が一切見えない。
足音は急いで階段を下りてきている様な音なのに、一向に姿が見えない。
僕は不審に思い、地下にこれから降りていこうとするのをやめて階段で1Fに戻った。そして、足音が聞こえている、だいたいの場所を把握しようと思った。
というのも、階段は地下2F~10Fまでの長い階段なので、もしかすると10階から下へ一生懸命下ってきている人物の足音を僕が聞いたと思ったからだ。
階段の踊り場から上を覗き込み、足音のしている位置を把握しようとした。
どうやら足音は、少し上、からしているみたいだ。
やっぱり、僕の思った通り深夜の緊急手術で急いでいる医者だったんだ。
そう思った僕は、いくら深夜の病院だからって一瞬、幽霊かと思ってしまった自分に苦笑を浮かべて、再び目的の地下へ向かおうとした。
今も一生懸命階段を下りている足音はしているが、一件落着だ。
僕が階段を2、3段降りた時に突然
ドドドドドドッ
物凄い人数が急いで降りて来るような音になった。
その足音は、僕の目の前の階段の踊り場を通過して、そのまま僕の脇を通過して地下へ物凄い早さで降りて行った。
これだけの音がしているのに、人の姿も、気配もなかった。
僕はその日の点検を中止することにして、仮眠室へ戻り布団にくるまって勤務時間の終わる朝まで震えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます