情報収集~鈍い二人とボスの忠告~
休憩を終えると、再び黒炎がやって来た。
「黒炎さん、いらっしゃい」
「茶会を頼む」
「はい!」
美咲は元気よく返事をしてお茶会の準備をする。
「そういえば、この間購入した飴まだあるんですよ。食べます?」
「頂こう」
黒炎の言葉に美咲は未開封の飴の袋を取り出した。
「はい、どうぞ」
透明感のある金色の飴を、黒炎は頬張る。
そして顔をしかめた。
「外れだ」
「え?」
「運気の上がる飴だが、上がらない、そこまで美味くない飴が混じってることがある、私が選ぶとどうしてもそればかり引く」
黒炎は飴をかみ砕いたようだった。
美咲は少し考えて、飴を一つ取る。
「じゃあ、私が取った飴はどうでしょうか」
美咲は黒炎の口元に飴玉を運ぶ。
黒炎は少し驚いたがすぐいつもの表情になり、飴を頬張る。
そして目を見開いた。
「どうです?」
「ああ、この上なく美味い」
「やった!」
美咲は純粋に喜んだ。
にこにこと笑いながら美咲は飴を頬張った、蕩けるような甘い味がした。
「美味しい!」
飴を頬張り、嬉しそうに口の中で飴玉を転がしているであろう美咲を見て黒炎は目を細めた。
──ああ、これでいいのだ。私はこれだけで、十分幸せなのだ──
心の中で温かくなるものを隠して美咲を見守った。
四十分程で茶会は終わり、黒炎は立ち去っていった。
少しだけすっきりした表情になっていたのが美咲には嬉しかった。
「癒やし係は貴方ですか?」
聞き慣れない声に振り向くと、オールバックの男性が居た。
「初めまして、私はボス直近の部下ルローです」
「る、ルロー様、い、いらっしゃいませ。はい、癒やし係です」
「……話がしたいのですが良いですか?」
「あ、はい。ならお茶会はどうでしょうか?」
「構いません」
「では準備を」
パタパタと美咲は動いて準備を始めた。
ルローは椅子に座り、用意されたお茶を飲む。
良い味のダージリンだった。
目の前にはクッキーを出される。
「で、お話というのは?」
「ボス──龍牙様がここに来る時どのようなことを?」
「いつも膝枕を所望されますが?」
ルローは思わず吹き出しそうになった。
──あのボスが?──
「……他にはどのような事を?」
「そうですね、頬を触ったり唇を触ったり、髪を撫でたりとか」
「……不快に感じたことは?」
「いえ、特には。だって食べたいとか首欲しいとか言わないですし、お尻触る訳じゃないですし、本当なんか大事そうに触れてくれるので嫌悪感とかはないですよ。あ、触れたいんだな、って思うだけで」
「そう、ですか」
ルローは美咲の貞操観念が少々不安になったが、一応線引きはしてあるらしいので、それ以上言うことは止めた。
「そういえば、色々問題を抱えているそうですね」
「ですねー、直近の問題は、皆が私の体の一部欲しがったり食べたがったりしてることですかねー。私プラナリアじゃないんで勘弁して欲しいです」
「そこはボスが何とか致します、他に問題は?」
「問題と言いますか……」
「何でしょう?」
「WGと敵対してるんですよね、ドラゴンファングって確か」
「ええ、そうですよ」
「いつ、対峙して私がここに居るとバレるのかが気が気じゃないです」
「知り合いでもいるんですか?」
「……学校時代WGコースに通っていた四人が居るんですが、四天王と呼ばれて居ます。知り合いです」
「なんと」
「バレてないっぽいんですが、絶対バレるだろうなぁという感じがあり」
「なるほど」
「向こうからしたら、どうしてドラゴンファングに入ったと非難されるだろうなと思います」
「でしょうね」
美咲の言葉に、ルローは頷くと共に、情報を得られた事に満足する。
「だって、ブラック企業辞めてそのままスカウトされた場所がドラゴンファングだなんて思わなかったんですもん」
「ブラック企業とドラゴンファング、どちらがマシですか」
「ドラゴンファング」
「そんなに……」
「休日出勤あり、残業代は払わない、セクハラはバリバリ……色々ありすぎて思い出すだけで吐けそうです」
「なら無理に思い出さなくて結構です」
「すみません」
ルローは会話の中で、ここまで善性が強いのに、よくドラゴンファングで居られるなと感心した。
「ドラゴンファングにいる理由とか他にありますか?」
「……黒炎さん」
ぽつりと、美咲は黒炎の名前を出した。
「中々きてくれないけど、私の事案じてくれてるし、素敵な方だし、何より行く当ての無かった私をスカウトしてくれたのが有り難いんです」
ルローは以前ボスである龍牙が言って居た事を思い出した。
『あの二人をどうにかくっ付かせろ』
おそらく、黒炎と美咲は両片思いなのが予想できた。
だが、それを言うのはあまり得策ではないと判断した。
「私から黒炎にも言いましょう、彼は幹部の中でもかなり疲れている方です」
「本当ですか?」
「ええ、本当です」
「じゃあ、どうして来てくれないんだろう……」
「ワーカーホリックですからね、彼は」
「むぅ、それはいけない」
「ですから、私から定期的に行くようにボス命令を使って来訪させますから、心配しないで下さい」
「良かった」
その後もしばらく会話をして、ルローは美咲から情報を収集した。
WGの現四天王が学生時代喧嘩をすると必ず呼び出され仲裁をさせられていた事。
怒りに身を任せている人間をなだめる事が会社に入るまでは出来ていたこと。
ブラック企業に入ってからは自分のことで手一杯になり、そう言った事柄ができなくなったこと。
等など。
「あ、私のことばかりでしたね、すみません」
「いいえ、良い話を聞かせていただきましたので」
「本当ですか?」
「ええ、本当です。ではそろそろ失礼致しましょう」
「お話聞いて下さり有り難うございます」
「いえ、こちらこそ、色々とお話して下さり有り難うございます」
ルローは部屋を後にするとボスが向かっているであろう、集合室へと向かった。
ドラゴンファングのヴィラン達が全員集まる、集合室のひときわ高い所に龍牙は立っていた。
「龍牙様」
ルローが戻ってくるのを確認すると、龍牙は口を開いた。
「お前達、最近『癒やし部屋』を頻繁に使用しているようだな、それは悪くは言わん、だが」
「あの娘に何かした者は命を持って償って貰うぞ、首が欲しいなど、食べたいだとそんな行為をしてあの娘に傷がついたり、死に至ったら、貴様等の命で償って貰う、そこをゆめゆめ忘れること無くあの部屋を使え」
「「「「「は‼」」」」」
「私はこれから部屋に向かう、それまでお前達は少し反省しておけ」
龍牙はそう言って居なくなった。
龍牙が居なくなると配下達はその場に座り込んだ。
「ボスこえー!」
「アレ言うのも止めろって奴だよなぁ」
「言うのも駄目なのかよぉ!」
「でしょうね……彼女の精神負担が増すからでしょう」
等など、言い合って肩を落としていた──
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