思い実る~役に立たなかった部下達~




 美咲は小休憩でトイレなどを済ませてから部屋に戻ると、龍牙が居た。

「龍我様、何でしょうか」

「美咲、膝を貸せ」

「はい」

 美咲はその場に正座した。

 そしていつものように龍牙は美咲の膝枕の上に頭をのせた。

 美咲は慈しむように龍牙の髪を撫でる。

 龍牙は美咲の頬や唇、髪に触れる。

「黒炎は」

「黒炎さんですか?」

「このように触れないのか」

「触れませんね、お茶会だけです」

 美咲は苦笑した。





 龍牙は心の中で舌打ちする。

 何をとろとろやっているのか、と。

 他の連中ももっと気を遣えと。



「奴にもこうしてやれ、本当は奴もこうしたがっているはずだ」

「本当ですか?」

「ああ」

「だったら、嬉しいなぁ」

 微笑む美咲が、我が子のように愛おしく見えた。

 龍牙に子どもはいないのだが。


 だからこそ「鎮めの乙女」である彼女を生け贄にする気は無かった。

 自分が母のように慕ったリフレインはその役目を全うするために死んだ。

 その結果世界は回っているが、腐りきっている所が多すぎた。


 だから、次こそは美咲を生け贄にせず、世界を壊してもいい覚悟が龍牙にはあった。



「美咲、お前は可愛い娘だな」

「有り難うございます」

「我が子のように思える」

「本当ですか?」

「ああ」

 美咲の顔に触れながら、龍牙は答えた。

「……だから幸せになれ」

「──有り難うございます」

 龍牙の言葉に美咲は泣きそうな顔で笑った。



「では、またな」

「はい」


 龍牙が部屋を出ると、ルローが黒炎を連れてきていた。

「あの、龍牙様」

「何だ黒炎」

「龍牙様は、美咲をどう思って居るのですか?」

 黒炎がそう問いかけてきたので、龍牙は呆れた様に言った。

「娘のように思ってしかおらぬわ。全くお前は……」

「……」

「いいか、膝枕をしてもらえ。これはボス命令だ」

「え゛」

「いいな?」

「は、はい……」

 黒炎は挙動不審になっていた、それが何処か面白かったが笑うことはしなかった。





 美咲が部屋で待っていると黒炎がやって来た。

 仮面を被って。

「黒炎さん」

「その……膝枕を頼みたい」

「‼ ……勿論です!」



「硬くないですかー? それより、なんで仮面してるのに顔を覆ってるんですか?」

「……みせられない顔になってるからだ」

「いや、でも仮面」

「本当、みせられない顔なんだ」

「あの……何か嫌なことでもありました?」

「違う、無かった」

「じゃあなんで……」

 困惑する美咲に、黒炎は声を絞り出すように言った。

「……だらしない顔になっていそうでみせられない」

「あ、あのそれって……」

 美咲はその言葉に、心臓の鼓動が早くなる。

「期待、しても、いいん、ですか?」

 美咲も言葉を絞り出す。

「……」

「いいんですか?」

「……いい」

 美咲の表情が薔薇色に染まる。

 仮面を被ったままの黒炎に抱きつく。

「嬉しい!」

「む、胸が! 胸が!」

「ちょっと仮面の突起が刺さって痛いですけど、嬉しいので我慢ですー!」

「話を聞いてくれ⁇‼」


「漸くくっ付いたか」





 ノックもせずに龍牙とルロー、蟲番とグリーレーだった。

「幹部が役に立たないからどうしたものかと考えていたが最初からこうすればよかったか」

「ボス、失礼ですが僕達もちゃんとやりましたよ?」

「蟲繁殖させたいから子宮貸せとか何処がくっつける手段だ」

 蟲番は使役する蟲の繁殖に美咲を使おうとして、ボスである龍牙と黒炎に鉄拳制裁を受けた。




『ねぇ、癒やし係なんでしょ? 俺蟲を見るのが癒やしでさ』

『はぁ』

『だからちょっと子宮かしてくれない? 子宮で育つ蟲だから』

『いやー‼ 誰かー‼』


 ドカバキドコ‼


『『そういう事を美咲にするな馬鹿者』』

『お前は出禁な』

『えー』



 という事があった。





「そうっすよー、俺ら頑張ったっすよ?」

「貴様は食べさせてといって噛みつこうとしたではないか」

 グリーレーはグリーレーで食べようとした為、速攻で龍牙と黒炎にボコられた。

「そして出禁でしたね、残念な程の早さでした」

 ルローが呆れた様に言う。





『お嬢ちゃん良い匂いしてるねー』

『あ、有り難うございます』

『だからちょっと食べさせてくれない?』

『え、いやですよ、ちょ、掴まないで口を開けないで、誰かー‼』



 ドカバキドコ‼



『『美咲を喰おうとするな愚か者』』

『貴様は出禁だ!』

『ちぇー』



 蟲番と似たオチで出禁にされた二人だった。



「りゅ、龍牙様、まさか……」

「お前達の思いなんぞお見通しだ、だからくっつけようとしていたのだ」

「し、しかし。それでは美咲の仕事に支障が……」

「寧ろ美咲に手出しする連中がいなくなってお前も安心だろう」

「それは、そうですが……」

「え、え? 龍牙様、もしかして……」

「美咲、お前が黒炎に惚れていた事くらいお見通しだ」

「マジですかー!」

 美咲が声を上げて頭を抱える。

「おおう……職場恋愛見透かされちゃってるよ……」

 そんな美咲を見て龍牙は笑う。


──そう、これでいい。より連中は美咲を「生け贄」にしづらくなる──


 龍牙は心の中で一人いい聞かせる──






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