運~不運な再会と鎮めの乙女~




 美咲がドラゴンファングの癒し係になって一ヶ月が経過したこと、外出許可が出た。

 許可が出た美咲がさっそくしたことは──

「運気が上がる飴を一緒に買いに行きたいと?」

「はい、私は何処に売ってるのか知らないので良かったら黒炎さんに教えていただきたいと」

「私が共にいったら飴が売り切れてるかもしれないぞ?」

「その時はその時、です」

 美咲の言葉に折れて、黒炎は了承し飴の売っている店へと連れて行った。





「あれ、こんなにありますよ。飴」

 売れ残っている彼の如く、飴は袋の中に入っていた。

 その光景に黒炎は驚いた。

 いつも売り切れているのに、売れ残っているのだ、こんなにたくさん。

「値段も結構しますね、一人五袋まで一袋一万ってどんだけな飴」

「10袋買おう、金は私が出す」

「あ、はい」

 美咲が籠に飴を詰め込み、会計を済ませる。

 エコバッグに詰め込み、黒炎と美咲は会計を後にした。

「ついでで悪いがお守りも買い直したい」

「分かりました、お付き合いします」

 美咲は黒炎の言葉に従った。


 その後お守りも良いものが買え、黒炎は驚いていた。

 とてもブラック企業に勤めていて運勢が良かったとは思えない美咲の運が明らかにでているのが分かった。


──本来の彼女の運は、強力なほどいいものなのか──





 美咲はクジを引き、中吉だったので結んで帰ることにした。

 待ち人の内容が非常に気になったが。

 その内容は。


『待ち人:懐かしき人来る、されど別離あり』


 と、何処か不吉な感じがしたからだ。

 他は絶好調的な内容だったのだが。


「美咲!」

イカルガ‼⁈」

 学生時代の顔なじみ件、出来れば今は会いたくなかった相手に美咲は出会った。

「一緒にいた奴は?」

「あれ⁇」

 黒炎が居ないことに気づく。

 が、すぐ背後に黒炎の存在を感じて凍り付く。

 殺気が溢れているからである。

 鵤に対して、敵意を向けている。


「黒炎テメェ、美咲に何する気だ」

「さて、何をする気だろうな」


 小脇に抱えられ、美咲はあっけにとられて動けない。


 そのままジャンプで天高く飛び上がり、黒炎のペットである、黒いドラゴンに乗っかりその場を逃亡する羽目になった。


「鵤とは、知り合いか?」

「えーっと、学生時代の同じ学校で過ごした中です。WGコースがある学校でしたので……四人組でいつも喧嘩しては私が呼び出されてなだめていました」


 美咲は空笑いを浮かべる。





 空笑いを浮かべる美咲を見て、その四人はWGの四天王と呼ばれる人物達だと黒炎は連想する。

「──後悔はしてないか?」

「いえ、してません。ただ、私と彼らは道を違えただけです。そこに後悔はありません」

「敵同士なのに?」

「まぁ、死んで欲しくないなー程度の感情と殺してもしなないだろうしなーってのがあります」

「なるほど」

「それに、なんとなくですが。私はドラゴンファングに居た方がいい気がするんですよ」

「勘、か?」

「はい」

 にこりと笑う美咲を見て、黒炎は仮面を被る。

「分かった、ドラゴンファングに戻るぞ」

「はい‼」





「何、ドラゴンファングにお前等が喧嘩する度に抑えるのに出てた美咲ちゃんが連れ去られたと?」

 鵤はWGの本部へ急行し、会長の部屋へと入ると美咲が連れ去られた事を告げた。

「なぁ、会長オヤジ。ドラゴンファングの場所知ってるんだろう、なら俺等が行って」

「儂が行く」

「へ?」

「何、トップとは顔見知りだからな。お前さん達はまっとれ」

 鵤の言葉に、会長は部屋を後にした。





「美咲がこちらにいることを知られた可能性が高いだと?」

「龍牙様、申し訳ございません」

「ならばあの爺がこちらに来るだろう、私は入り口で待っている」

「しかし……」

「お前は美咲の側にいてやれ」

「……は!!」

 黒炎は事情を全て話すとそう命令されたので、美咲の元へと行った。

 美咲は休憩中だった。

「美咲」

「黒炎さん」

「しばらく非常事態体制だ、ここで大人しくしてくれ、私も側にいる」

「は、はい!」

 シャッターでガラスが全て閉められる。

 完全に密閉された空間になった。





「……」

 龍牙は入り口で一人たたずんでいた。

 そこに、白いドラゴンに乗っかりやって来たWGの会長の姿があった。

「久しぶりじゃな龍牙!」

 会長は人なつっこいそれでいて優しい笑みを浮かべて龍牙に話しかけた。

 一方の龍牙は冷たい顔つきだった。

「何の用だ爺」

「爺とは酷いのぉ、まぁ確かに爺なんじゃが」

「くだらない要件はいい『鎮めの乙女』の事だな」

「話が分かってるなら早い、こちらに来て貰いたい」

「断る」

 会長の言葉を龍牙はバッサリと切り捨て睨み付ける。

「リフレインのように、死なせろと言うのか?」

「儂はそんな事いっとらん。だが『鎮めの乙女』の力が必要なのだ」

「……こんな腐った世の中で?」

「確かに腐っているかもしれん、だがそれでも救うべきものがいるとリフレイン様の言葉を儂は信じている」

「リフレインによって世界は救われた、だがリフレインは死んだ。それを誰もが知っているはずなのに、誰も反省していないではないか」

「反省してほしくてリフレイン様は巫女として義務を全うした訳ではないぞ」

 次第に真顔になって話していき、空気も冷ややかになっていく。

「俺は彼女を巫女として死なせない、を殺す」

「ならば儂はお主と止める」



 しばらく二人はにらみ合う。

「では儂は帰る。その時が来たら、殺し合うぞ」

「ああ、王牙おうが、殺し合おう」



 龍牙は会長──王牙が居なくなるのを見送った。

「あんな顔、まだ出来たのだな」


 龍牙は楽しげに呟いてその場を立ち去り、入り口を閉じた。





「……」

「美咲はいるか?」

「龍牙様、はい。ただ、急に寝込んでしまい……」

 解放されたが「休憩中」とかけられている部屋に入ると美咲はおらず、黒炎が居た。

 龍牙はそのまま美咲の部屋に向かい、ベッドで眠っている美咲の頬を撫でる。

「お前を生け贄などにはしない、決してな」

 龍牙はそう言って部屋を後にした──






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