癒やし係は活動中~物思う~




「ねぇねぇ、美咲ちゃん。俺すっげー頑張ってるのにWGワールドガーディアンの連中がめっちゃ邪魔すんの‼ そんで失敗して皆にディスられるの酷いよなー‼」

「はい、そうですね。ベァさんは必死に頑張ってますものね」

「うーそう言ってくれるの、美咲ちゃんだけ‼」

 一週間が経過した。

 名前と顔が覚えるのが苦手な美咲だったが、個性的すぎるので覚えるのが多少楽になっていた。

 その為インパクトが強い面々は早々に覚えてしまった。

 今、癒やしている、いや慰めているベァもその一人だ。

 褐色肌に上半身裸のボディビルダーさながらの体格の持ち主だった。

 顔つきが少々特殊なので、体型のインパクトと顔、そして名前の短さも相まって覚えることが早々に出来た。


「美咲ちゃん、ありがと! 今度紅茶送るね! あと今度は体の一部食べさせてね!」

「体の一部はご遠慮下さい」

「ちぇー」

「ではまたのご利用を」

 そう言って出て行くのを見送ると、今度は真っ白な服を着た美丈夫が入ってきた。

「ユゥ様」

「美咲、ユゥで結構です」

「でも、ドラゴンファングで黒炎さん達の次に偉い人なのですから」

「なら、さん付けで」

「それなら……ユゥさん、今日はどうしました」

 美丈夫ユゥはそう呼ばれて微笑んだ。

「お茶会を希望致します」

「分かりました、用意します」

「茶菓子はこちらで用意致しました」

「有り難うございます」

 美咲と付き人達は茶会の準備をして、椅子とテーブルを用意し、お茶を入れる。

 ブラック企業時代の取った柄で、お茶を入れるのは美咲は上手だった。

「飲み物は?」

「紅茶を」

「はい」

 紅茶を用意する。

 ティーパックではなく、茶葉の紅茶だ。


 今日はダージリンだ。


「どうぞ」

「有り難うございます」

 お茶をユゥに出すと、美咲は自分の分も入れて椅子に座る。

「ロシアンクッキーですね」

「お気に召しませんか?」

「いいえ、大好きです」

「それはよかった」

 ユゥがほっと息をつく。

 美咲は一口かじり。

「んー美味しいです」

 と言ってクッキーを口にしてから、クッキーを手に取り、ユゥの口に持って行く。

「はい、どうぞ」

「ふふ、有り難うございます」

 ユゥはクッキーを口にし、ペロリと美咲の指を舐めた。

「あんまり、そういう真似をすると、下の者達は勘違いしてしまいますから、注意を」

「ああ、はい分かりました。食べられたくありませんからね」

 美咲は指を拭く事をせず、頷いた。

 ユゥは一瞬「それもあるけど、違うんだよなー」的な顔をしたがすぐいつもの微笑み顔に戻した。

「では、お茶会を続けましょう。実は今日はブラック企業と呼ばれる会社を潰してきましてね……」

「是非お聞かせ下さい」

 ユゥとの談話に花が咲く。


 一時間ほどして、話が終わり、ユゥもすっきりとした表情になっていた。

「今日もお話ありがとうございました、ではまた」

「はい、ではまた」

 ユゥがその場から立ち去ると、美咲は立ち上がり。

「お花摘みに行ってきます」

「はい、分かりました」

 そう言ってトイレへと向かった。



 トイレから出てきて手を拭き、再び仕事に戻ろうとする。

 するとやって来たのは龍牙だった。

「龍我様」

「美咲、膝を貸せ」

 一週間経って名前を呼んでくれるようになった。

「はい、畏まりました」

 その場に正座をすると、龍牙は膝に頭をのせた。

「龍牙様、どうなさいましたか?」

「幹部等はWGの連中に引けを取らんが、下が不出来すぎる。遠隔操作のロボットを使用させても宝の持ち腐れだ」

「まぁ」

 美咲は驚く。

 そのようなロボットまで用いているとは思ってなかったからだ。

「だが、いい。WGのトップは老いぼれだ。俺の敵ではない」

「WGのトップが誰なのか、知っているのですか?」

「……まぁな」

「そうですか……」

 美咲はあえて問いかけるようなことはしなかった。

「知りたいと思わないのか?」

「私が聞いた方がよいですか?」

「いや」

「なら聞きません」

 そう言うと、龍牙は笑みを浮かべて美咲の髪を撫でた。

「美咲、お前の髪は実にいい」

「有り難うございます」

 そして頬を撫でる。

「動物に恐れられる俺を恐れず、撫でられるお前が愛おしくてたまらぬよ」

「有り難うございます、龍牙様」

 美咲がそう言うと、龍牙は起き上がり、頭を撫でて立ち上がった。

「励むがよい」

 そう言って部屋を後にした。


「ふぅ」


 と美咲は息を吐き出した。

 龍牙が怖くはないがちょっとは緊張するからだ。


「WGかぁ……」


 美咲は思いをはせるように遠くを見た。





 学校に、WG養成コースがあったのだ。

 四人がその学校に居た。

 問題児だったが、彼らとは仲が良かった。


──私がドラゴンファングに入っちゃってるのは知られない方がいいよなぁ──


 とかそんな事を考えていると──


「おい」

「む、蟲番様⁈」


 毒々しい色の服を着た男──蟲番が声をかけてきた。


「なんだ、お前疲れてるのか? ぼーっとして」

「はい、少しだけ」

「だろうな、ボスの相手をしたんだ、そりゃ疲れる」

「ははは……」

「ほれ」


 蟲番は、美咲に何かを差し出した。


「えっとこれは……」

「黒炎が好きな飴だよ、運気がアップするってさ、オカルトだよなぁ」

「それ黒炎様にはいわないほうが」

「とっくに言ってる」

「ありゃ」

「次、黒炎が来るだろうから一緒に食べるといいよ。それじゃあね」

 蟲番はそう言って部屋から出て行った。


 それから程なく、黒炎が部屋へとやって来た。


「美咲、少し休ませて欲しい」

「はい。ああ、飴はいかがですか」

「飴? ……‼ その、飴は……‼」

「蟲番様が黒炎様と一緒にと」

「……彼奴め」

「黒炎様」

「いや、いい。食べよう」

「はい」

 黒炎の言葉に美咲は微笑んで返した。



「え、じゃあこの飴いつも売り切れてるんですか?」

「ああ……私が買いに行くとな」


 ころころと口の中で飴を転がしながら会話をする。


 小さくなった飴をかみ砕いて、飲み干す。


「黒炎様、運気ないんですか?」

「運が悪いのだ、私は、色々と、な」

「そうなのですね……」

「だが、美咲。君がここに来て以来運気が上がっている気がするのだ」

「本当ですか? それなら嬉しいです」

 美咲は、黒炎の手を握った。

「‼」

「黒炎様の役に立てて私は嬉しいです」

「あ、ああそうか……」

「だって、ブラック企業を辞めてから行く当てのない私を雇って下さいましたから」

「そうだな、ああ」

 仮面を外している黒炎は微笑みを浮かべた──






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