新たな協力者

 私が才女候補になった次の日の朝、母から呼び出された私は、母の部屋に来ていた。

「お母様、お呼びでしょうか?」

「リリー。よく来たわね。紹介するわ。カーディナリス家の騎士団長よ。今日から、あなたの身の回りの安全を守る専属の護衛よ」

「私専属の護衛ですか?」

「ええそうよ。大切な才女候補に何かあってはいけないわ。だから、騎士団長を専属の護衛につけるから、どこかへ出かけるときは、必ず一緒に連れて行きなさい。いいわね」

 とか言って、私のことを監視させるつもりね。水がなければ監視なんてできないものね。厄介な女だわ。

「ありがとうございます。ですが、騎士団長を連れ出してしまって、カーディナリス家の騎士団は大丈夫なのですか?」

「大丈夫よ。もともと、騎士団長を才女候補になった娘につけるつもりでいたもの。それまでに、しっかりほかの騎士たちも訓練を積んでいるわ。心配しないで頂戴」

「分かりました。では、失礼いたします」

 母に礼をすると、騎士団長を連れ、部屋に戻った。


「何してるの?早く入りなさい」

「え……」

「え、じゃなくて。早くして」

「はい。申し訳ございません。失礼いたします」

 この屋敷には自分の部屋と書庫以外、監視されない場所がない。だから、部屋に入ってもらわないと話したいことは中々話せないのだ。

「初めまして。リリー・カーディナリスです。今日から、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします。リリーお嬢様」

 やっぱり名前がないのね。執事長のクレオメでさえ、名前はなかった。魔力量があっても、出身が使用人処では扱いはあまり変わらないのだ。

「私は、自分とよく関わる使用人たちに呼び名を付けているの。だから、あなたにもつけるわ」

「呼び名ということは、名前ですか? 恐れ多いです」

「安心して。正式な名前ではないから。そうね。あなたは、ヘレボルスと今日から呼ぶわ。改めてよろしくね、ヘレボルス」

「は、はい! よろしくお願いいたします」

 跪くヘレボルスの姿は、おとぎ話の出てくる騎士のようで少しカッコよく見えた。

「さて、話は変わるけど、ヘレボルス。あなた、お母様から監視を命じられていたりするのかしら?」

 ヘレボルスの肩が微かに動いた。やっぱり。あの女。才女になる前に潰してやるわ。

「そう。ねえ、今日からは私の専属の護衛なんだから、お母様の命令はなかったことにしてくれないかしら?」

「で、ですが、自分を買ったのは、奥様です。逆らうことなど……」

「あら? 初めはそうでも、今は違うわ。この国は魔力量が全てなのでしょう? なら話は早いわ。私は才女候補。つまり、お母様より魔力量が多いということになるわ。だから立場は私の方が上のはずよ。違うかしら?」

「それは……ですが、報告せよという命令に背くことは……」

「お母様への報告……そうね。カルミア。ヘレボルスに報告用の文章を作ってもらえる?」

「かしこまりました」

 ヘレボルス自身が命令に逆らうのは無理だし、私がここで報告を止めるように言ったということがお母様に知れれば、きっと疑問を持つ。そうなれば、お姉様を探す邪魔になりかねない。あくまで従順で優秀な娘を演じなければ。ここまで積み上げたものがダメになってしまう。

「ヘレボルス、お母様への報告は続けて。ただし、報告の時間までに、カルミアの用意した文章を全て覚えること。いいわね」

「はい。仰せのままに」

 うーん。顔はカッコイイんだけど、きっと母や周りから虐げられてきたのだろう。でも、騎士団長をやっていたのだから魔力量はそれなりにあるはず。えっと、ヘレボルスの魔力量は……

「60!?」

 大声を出すと、カルミアもヘレボルスも目を丸くしてこちらを見た。

「お嬢様? どうされました?」

「あ、えっと、ヘレボルスの魔力量が60っていうのに驚いて。それだけあれば、騎士にならずとも暮らしていけるんじゃないかと思ったんだけど」

 カーディナリス家みたいな大きな家ならともかく、小さな家ならば、60あれば不自由なく暮らしていける。そもそも、10未満が奴隷、10以上~50以下が使用人処に送られる基準となっているのだ。60もある使用人など、例外中の例外だ。

「自分の家では、勇者候補になれなかった時点で用済みでしたから。魔力量がそれなりにあっても、何の意味もありません」

「そんな……」

 勇者候補や才女候補になるための魔力量を持つ者はなかなか現れるものではない。それなのに、そこを基準として子供を選ぶなど、この国に毒され腐った人間だ。おのれ2代目勇者め。

「ところで、ヘレボルス。使える魔法は?」

「はい。付与魔法と炎属性の魔法です」

「付与魔法か。それって、剣を強力なものにしたり、自分の身体能力を底上げできたりするのかしら?」

「どちらも可能です」

 なるほど。私も付与魔法は習得しているが、自分の身体能力を上げることしかできていない。剣などの武器を用いて戦うことはないが、できるようになれば、模擬戦でもきっと役に立つだろう。カーディナリス家にあった魔導書の付与魔法には、武器を強化するものはなかったからな。これは好都合だ。

「護衛ではないけれど、頼みたいことがあるわ。朝食が終わってしばらくしたらまた呼ぶから、その時に話すわね」

「かしこまりました。では、自分は失礼いたします」


 ヘレボルスと別れた後、朝食をとり、クレオメを部屋に呼んだ。

「報告をお願い」

 クレオメは執事長で、カーディナリス家の人間すべてのスケジュールを把握している。つまり、両親のいない時間を知っている唯一の人物なのだ。

「奥様は本日お茶会へ出かけております。旦那様は昨日から隣国に行かれております。お帰りは、奥様は本日の夜、旦那様は明日の昼でございます」

「うーん。座学はともかく、実践の時間があまりとれないわね」

「お嬢様、無礼を承知でお聞きしますが、まだ奥様と旦那様には内密にしておかれるのでしょうか? 才女候補になられましたし、才女になるための訓練などは、内密にせずともよろしいのではありませんか?」

 確かに、私の協力者である使用人10人には、才女候補になるための隠れた努力であるとかいってごまかしていた。だが、才女候補になった今、隠す理由がない。

「そうね。けれど、私にはもう一つ、やるべきことがあるの」

「セラスお嬢様ですね」

「え?!」

 バレている。私ってそんなに分かりやすいのかしら。

「やはりそうでしたか。奥様や旦那様に黙っているようにおっしゃったときから、そうではないかと思っておりました」

「お母様に報告するのかしら?」

「まさか。クレオメという名を下さったリリーお嬢様こそが、私の仕えるべき主でございます。他の使用人たちも皆、セラスお嬢様のためであると分かった上で、知らぬふりをしているはずです」

「じゃあ、5年前からずっと気づいていたの?」

「はい。ですが、気づいていないふりをしておりました。奥様や旦那様に逆らう力はございませんが、上手く立ち回ることなら、我々の得意とすることです」

「そう。私ってば、全然誰も信用してなかったわ。みんなは信用してくれていたのに」

「無理もありません。奥様や旦那様に命令されれば、我々は逆らえませんから、警戒なさるのも当然のこと。しかし今は才女候補となられました。リリーお嬢様には、十分力がございます」

「ありがとう。なら、今日からはあなたたちを全面的に信用するわ。裏切ったら許さないわよ」

「もちろんでございます」

「それで? クレオメはこれからどうするべきと考えているのかしら?」

「セラスお嬢様を捜索するのが最優先と考えます。知識や技術はもちろん大切ですが、セラスお嬢様の無事をまずは確認した方がよろしいかと思います」

「そうね。クレオメの言う通りだわ。でも、セラスお姉様のいる場所には、きっとお母様もいるわ。対峙することは目に見えている。だから力は付けておきたいの。そこで頼みがあるわ」

「なんなりと」

「この屋敷の間取りを書いて持ってきてほしいの。建物のことはイベリスが詳しいから、彼と協力してね」

「かしこまりました」

「頼んだわよ。後、ヘレボルスを呼んできて、彼が来たらフィールドを作ってもらえないかしら?」

「かしこまりました」

 クレオメは出入口以外にフィールドを作った。こんな器用なことができるのに、使用人とは少しもったいない気がするのだが。クレオメもきっと、魔力の質はいいのかもしれない。


 ヘレボルスが到着すると、クレオメは入り口をフィールドで閉じ、私の部屋を後にした。

「お呼びでしょうか、リリーお嬢様」

「ええ。ヘレボルス、私に付与魔法を教えてくれないかしら?」

「自分がですか?」

「そうよ。あなたは、剣などの武器にも付与魔法が使えると言ったわね?」

「はい。ですが、付与魔法はリリーお嬢様もお使いになれるのでは?」

「使えるけれど、カーディナリス家にある魔導書では、自分を強化する付与魔法しかなかったの。だから、武器を強化する付与魔法を私に教えてほしいの」

「かしこまりました」

「じゃあ、今から武器を出すからまずはお手本を見せてみて」

 そう言って、私は魔法で武器を生み出した。弓、槍、剣、短剣、杖。想像できた武器がこれだけとは……。もっと武器のことの知らないといけないな。

「想像魔法もお使いになるのですね」

「そうよ。さ、すべてに付与魔法をかけてみて」

「は、はい」

 ヘレボルスは素早く全ての武器に付与魔法をかける。手際もいいし、かけられた武器も強力なものになっている。自分が生み出した武器だから、使わなくても強化されているのがわかる。さすがは自分で付与魔法を使うというだけのことはある。これがあれば、父の魔力量90に加えた剣術にも抗えるかもしれない。

「素晴らしいわ。じゃあ、昼食までにマスターするから、よろしくね!」

「そんなに早く!?」

 ヘレボルスは驚愕したようすだったが、基本から丁寧に教えてくれた。騎士団長として他の騎士たちを鍛えていたからか、彼もまた教えるのが上手だった。私は、宣言通り、カルミアが昼食を運んでくるまでに武器への付与魔法をマスターしたのだった。


 夕食を終えるとすぐに、扉がノックされた。私は返事をせず、代わりにカルミアが扉の向こうの人間を確認しに行く。

「お嬢様、イベリスが来ていますが、どうされますか?」

「通して」

「かしこまりました」

 カルミアが合図すると、申し訳なさそうにイベリスが入ってきた。

「遅くなってしまい申し訳ございません」

「急がせた覚えはないけれど、クレオメね。急ぐように言ったのは。用件は間取り図のことでしょう?」

「はい。その通りでございます。こちらです」

「確認するわ」

 手に取ると、緻密に書かれた間取り図がそこにはあった。

「早いうえに、とても丁寧な仕事ね。ありがとう」

「い、いいえ。当然でございます」

 イベリスは謙虚な言葉を放ちつつも、照れた様子だった。やはり、魔力量以外にも、人間は褒められるべきところを持っているのだ。

「なるほどね。イベリスのお陰で、お姉様の居場所が分かったわ」

「ほ、本当でございますか?! ですが、不審な場所はどこにも見当たらなかったのですが……」

 間取り図上に不自然な点はない。だが、儀式の間そのものが不自然なのだ。

 カーディナリス家の血筋の者が眠るとされる墓。私もそう思っていた。しかし、そうではないのだとしたら、辻褄が合うのだ。

 カーディナリス家に相応しくない子供を幽閉するための地下牢。これが儀式の間の正体ならば、お姉様は間違いなくそこにいるし、儀式の間は神聖な場所でもなんでもない。

「儀式の間は、カーディナリス家の墓。ということは、地下があるということになるでしょ?」

「そうですね。地下空間があります。恐らくそこに、棺を置かれているのだと思いますが」

「いいえ。そこに棺なんてないわ。あるのは地下牢よ」

「な……!」

 カルミアもイベリスも青ざめた顔をした。当然だ。こんなこと、カーディナリス家の人間なら隠し通すに決まっている。もし密告する者でもいたならば、お得意の魔力量で葬ったに違いない。お姉様の誕生日の日だって、騎士たち全員で私を部屋に連れて行った。5歳の少女相手に、少々やりすぎだ。だが、儀式の間のことを隠すのであれば、その行動の意味も分かる。

「人間の魔力量なんて、人間がどうこうできるものじゃないわ。それなのに、カーディナリス家の人間は代々魔力量が多いことが知れ渡っている。ありえないのよ。魔力量の多い親から魔力量の多い子供が生まれる保証はどこにもないのに、カーディナリス家はそれを実現させている。子供を授かるだけでも奇跡といえるのに、さらに奇跡を起こしているようなものよ。現に、お姉様と私の魔力量は違った。それなのに、奴隷商に売られてはいなかった」

「だから、儀式の間がセラスお嬢様を幽閉している地下牢であると」

「そういうことよ。カーディナリス家はプライドの塊みたいなもの。1人でもカーディナリス家出身の奴隷が知れ渡ってみなさい。他の一族からバカにされるに決まっているわ」

「それを隠すために……」

「ええ」

 本当は今すぐにでも乗り込んでお姉様の無事を確認したい。でも、今私が感情だけで突っ走ってしまえば、他の使用人たちが上手く立ち回ってくれたのを無駄にすることになる。計画を立てた上で決行しなければ。

「まあ、この目で見たわけじゃないから、ここだけの秘密にしてね。今日はもういいわ。ありがとう。下がっていいわよ」

「はい。失礼いたします。おやすみなさいませ。リリーお嬢様」

「カルミアも今日は休んで」

「え!? まだ眠るお支度が……」

「いいのよ。ありがとう」

「うぅ……失礼いたします。おやすみなさいませ。お嬢様」

「おやすみ。2人とも」

 半ば強制的にカルミアとイベリスを部屋から出した。今の話をしてしまって、危険が及ばないか、今更ながら心配ではある。だが、儀式の間に入る作戦はもっと危険だ。できれば巻き込む人数は制限したい。ただ殺すだけなら簡単だが、使用人たちを利用されては私も手を出しづらい。そうならないよう、慎重に計画を立てなければ。とはいえ、悠長にもしていられない。連れ去られたのが地下牢であるならば、5年もそこで暮らしているということになる。食事や水の有無も気になるし、どういう生活をさせられているのかも気になる。いや、それよりも、生きていているのか。墓というならば、そのまま幽閉して死なせるのではないか。

「ダメだ。悪いことしか浮かばない。こうなったらさっさと助けないと。とりあえず明日の準備と、作戦は今日中に作っておきましょう」

 私が行くまで、どうか無事でいてください。お姉様……!


 翌朝ー。

「お嬢様!」

「どうしたの? カルミア」

「奥様が、一緒にご朝食をお召し上がりになりたいと……」

「っ!」

 なんなのよ。私の部屋には干渉を妨害する魔法が施されているから、いくら魔力量の多い母でも中を見ることも、話していることを聞くこともできないはず。それなのに、このタイミングで食事。何を企んでいるのよ。

「すぐに支度をして。お母様を待たせては失礼だわ」

「行かれるのですか?」

「拒否すれば怪しまれるわ。アベリアに軽食を部屋に準備しておくよう伝えておいて。カルミアも一緒に行くわよ」

「はい」

 急いで支度を済ませると、母の待つ朝食会場へと向かった。


「お待たせして申し訳ありません」

「構わないわ。急に言ったんですもの」

「どうされたのですか?」

「いつも部屋で食べているようだけど、どうしてか気になったのよ。確かにここは、1人で食べるには広いけれど、部屋で食べるよりはいいんじゃないかしら?」

 探りを入れてきている。それもこんなにわかりやすく。私が部屋で過ごす時間が増えるほど、監視ができなくなる。それを不都合に感じたのだろう。

「お気遣いいただきありがとうございます。ですが、大丈夫です。私、部屋で食べる方が好きなんです」

「そうなの? でも、あなたも才女候補になのだから、社交性を磨くべきだわ。あ、そうだわ! 私の知り合いの一族のパーティーがあるの。そこに参加するといいわ」

 この屋敷から遠ざける気か。パーティーともなれば、帰りが遅くなる。つまり、私がいない時間が多くなるということ。そうなれば、いくら優秀な使用人とはいえ、私が何をしているのかを吐かされるのも時間の問題だろう。くそ。底意地の悪い。今日の予定が朝から狂うなんて。

「お母様、申し訳ありませんが、今から外出の予定がありまして」

「あら? どこへ行くのかしら?」

「折角お母様が専属の護衛をつけてくださったので、街へ行こうと思っていましたの。ですから、パーティーはご遠慮させていただいてよろしいでしょうか?」

「そうだったの。なら行ってくるといいわ」

「ありがとうございます。では、私はこれで」

「食事は大切よ。食べないと体にも悪いわ」

「大丈夫です。では」

 あんたと食べるから食欲が失せるんだっての。はあ。アベリアに食事の用意を頼んでおいて正解だった。


「はあ。疲れた」

「おかえりなさいませ。準備はできていますよ」

「ありがとう、アベリア。後、今のうちにヘレボルスを呼んできてもらえるかしら?」

「ヘレボルスといいますと?」

「あー、アベリアはまだ会ってないのか。カルミア。代わりに頼める?」

「もちろんでございます」

「申し訳ありません。把握不足でございます」

「いやいや! ヘレボルスは、昨日お母様から私の専属護衛を任された騎士団長のことなの。騎士団に会うことはほとんどないから、私も知らなかったし、アベリアが知らないのも無理はないわ」

「失礼します。お嬢様、ヘレボルスを連れてまいりました」

「失礼いたします。お呼びでしょうか、リリーお嬢様」

「カルミアありがとう。それと、少しヘレボルスと2人で話をしたいから、アベリアとカルミアは席を外してくれるかしら?」

「かしこまりました」

 2人が部屋を出るのを見送ると、私はヘレボルスに向き直った。

「ヘレボルス。今日は、街へ行きたいと思っているのだけれど、その前に確認しておきたいことがあるわ」

「はい。なんでしょうか?」

「他の使用人たちとは付き合いが長いということもあって、とても信頼しているし、よく知っているつもりよ。けれど、ヘレボルスとは昨日知り合ったばかり。そこで、絶対裏切らないっていうことを証明してほしいの」

「どのようにすればよろしいでしょうか? 誓約魔法で誓約なさいますか?」

「そんなことしなわよ。私がしてほしいのは、今から本音で話すこと。国のシステムのこととか、カーディナリス家のこととか、お母様の命令のこととか、全部抜きにして、ヘレボルス自身が思っていることを話してほしい」

 彼は優秀だし魔力量も多い。それなのに勇者候補じゃないからと家を出され、今に至る。なら、国のシステムに一番異を唱えたい人間だろう。そういう考えならば、協力者として、できれば迎え入れたい。

「自分は……自分は、この国が好きではありません」

 キター! そうよ、そうよ。理想の回答だわ!

「自分は一族のために努力してきました。魔力量を測定する10歳までに付与魔法も炎属性の魔法も完璧に自分のものにしました。ですが、結果は魔力量60。普通なら喜ばれるはずの数値なのに、罵倒され追い出されました。ああ。自分の努力って何だったのだろうと思いました。そんな時、奥様に買っていただきました」

 タイミングバッチリじゃない。傷ついたときに、優しい言葉でもかけられたら、いくら金で買われたとはいえ、従いたくなるわよね。でも、ここは魔力量が全ての国。使用人処の教育者よりも魔力量が高い人間には、無償で譲るということもあるそうだ。ヘレボルスは買われたと言っているが、正確には引き取られただろう。

「自分には、もう誰かに従うことしかできません。ですがもし、自分が勇者候補になれていたのなら、魔力量だけで判断するこの国を、変えようとしたかもしれません。今となっては夢物語ですが」

「その夢物語、私が叶えるわ」

「え?」

「本音で話してくれてありがとう、ヘレボルス。私はあなたを信用します。私もあなたと同じ気持ちを持ちながらこの国で過ごしています。魔力量が人間の全てを決めていいわけないもの。だから、私に協力してほしいの。もちろん、お母様には内緒でね」

「もちろんでございます。お嬢様に全てを捧げます」

 いや別に、全てはいらないんだけど。まあいいか。

「よし。じゃあ、今から私を武器商人のところに案内してくれる?」

「折角街へ行かれるのに、武器をご覧になるのですか?」

「私の想像魔法の拙さ見たでしょ? 武器って言われてあれだけしかでてこないの。もっとたくさん出す予定だったのに」

「あれで拙いとは……さすがは才女候補様です。かしこまりました。知り合いに武器商人がいますので、そちらへ向かいましょう。ご案内させていただきます」

「よろしくね」

 使用人に加え、騎士という新たな協力者を得た。

 儀式の間に乗り込む日は近い。







 

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