File09

「そういえば……ともこさんと、ちかさんと、たつおさんが『ただしこさん』って、何度も言っていたですね」

 顎に手を当てながら二家は霊たちとの会話を思い出しているようだった。

「『ただしこさん』?」

 佐茂の琥珀色の瞳に光が灯った。

「旧校舎に建っている少女像の台座の銘板には確か『正子さん、安らかに』という文字が刻まれていたと小生は記憶しているのだが……あの少女の名前が『正子さん』だとしたら、まさこさん、しょうこさんと読むのが一般的だろう。ただ、あの少女のあだ名が『ただしこさん』であった可能性はゼロではない筈だ。あの少女像のモデルは実在の人物なのか? 実在の人物だとして、本人は生きているのか? すでに亡くなっているのか? そもそもあの銅像は何のために建てられたものなのか? 謎だらけだ……今回の事件には怪異が絡んでいると小生は思うのだが、皆はどう思う?」

「怪異の可能性が高いと思うです」

 と、二家と美魂さん。

「調べてみる価値はあると思うさ」

 と、虎丸。

「それでは、怪異事件の方向で調べていこう。虎丸には、陸上部や1年A組の人脈から恐田 狡毅および恐田家関連を中心に情報収集をお願いしたい。二家と美魂さんには、霊たちへの聞き込みを強化して『ただしこさん』に関する情報収集をお願いしたい。小生は、少女像が持っている情報から当たりをつけて今回の事件と因果関係がありそうな過去の事件を調べようと思うのだが、お願いできるだろうか?」

「お願いされなくたって調べるに決まってるさ」

「そうですよ。怪異事件とあらば、私の能力なくしてどうするです?」

「二家を怪異から護ることができるのは、あたちだけなの」


 こうして、降魔高校オカルト部の部員たちは、後に『走れただし子さん事件』と呼ばれることになる、怪異事件解決のために一丸となった。

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