第3話 とある休日(前編)
時になった。平日なら活動を始める時間。しかし、今日は日曜日。お弁当を作る必要はないので、寝てはいなかったが、珍しくベットの上でゴロゴロしている。
これがとても気持ちが良い。自分の身近にこんなにも幸せな思いができるものがあるなんて知らなかった。今までで一番お嬢様に感謝している。
さt、そのお嬢様はというと
部活に所属していないこともあり、朝の8時を過ぎたというのに、まだグータラと部屋で爆睡している。
まあ俺としては、この幸せなひとときが終わってしまうのは、物足りない感じもあるので、もう少し寝ていて欲しい気持ちもあるが。
いやいや、従者といてそんなことを考えてはいけない。
休日に生活リズムを崩すのは従者としてあまり無視していいものではない。起こさなければ。
だからと言って、なんの理由もなしに起こすのも従者としていいものではない。さて、どうしたものか。何かお嬢様が起きなければならないような状況にはならないだろうか。
少し悩んだ末、買い物を理由に起こそうと決め、さっそくお嬢様を起こしに行った。一応ノックをし、返事がないことを確認してドアを開ける。
相変わらずの酷い服装に酷い寝相、見てはいけないものを見てしまったと言いたくなるような状態のお嬢様がそこにはいた。あいからずの寝相でいらっしゃる。
深くため息をつく。まあお嬢様も意識的にやっているわけではないから仕方ないのだが、起こすこっちの身にもなってほしい、申し訳なく思えてくる。
起こすためにベットの横まで移動する。窓からは日差しが差し込み、お嬢様の顔には日焼けしそうなくらい鋭い日差しが差し込んでいる。なぜこれで起きない、不思議だ。
お嬢様の横で念の為、簡単に一声かける。お嬢様の耳にはワイヤー付きのイヤホンがついていた。音楽を流すという本来の役割はもう全うしてないが、耳栓としての役割を発揮している。
あれほどスマホをベットに持ち込まないでくださいと言ったのに。言ったことを守らなかった罰として、少し痛い目を見てもらおう。
「お嬢様、もう朝の8時15分です。起きてください。」
「……zzz」
よし、爆睡確認。お嬢様の携帯を手に取り、ロック画面に表示されている再生ボタンを押す、音量を最大にした状態で。
ガバッ
いきなりの大音量に驚き、お嬢様は一瞬にして体を起こした。勢いよく体を起こした為、イヤホンが耳から外れる。
お嬢様は寝ぼけており、何があったのか全く理解できておらず、頭に?が浮かんでいる。
「おはようございます。お嬢様。今日もいい天気ですね。こんな日に外に出ないなんて勿体無いですよ。」
「…おはようぅ。龍斗。…うぅ、頭が痛い。」
そう言って頭を抱える。
「急に体を起こしたせいでしょう。すぐに収まりますよ。」
「なんで急に体を起こしたんだろう。」
「もう8時を過ぎていますし、あまりの遅い起床にびっくりして起きてしまったのではないでしょうか?」
「ん、自分で起きたのか。」
そういうことにしておこう。主人の耳に爆音を流したなんて知られると面倒だし。
「そうでございますよ。」
「じゃあなんで寝起きの私の横に龍斗が横にいるの?」
お嬢様の顔が急に険しくなる。
「お嬢様、今日のご予定ですが…」
「おい、何をした。」
「おい、という言葉遣いは良くないですよ。お嬢様。」
やばい。覚醒するのがはやい。いつもならもう少し寝ぼけてるだろ。逃げるためにお嬢様の支度の準備を始め、タンスの方へ向かう。すると、
「ん、イヤホン。あれ、なんで音量マックスで音楽が流れてるの?」
あ…やばい、切るの忘れてた。お嬢様は完全に覚醒したようだ。
「龍斗、どういうこと?」
あぁ、やらかした。振り返らずとも、オーラでわかる。お嬢様はきっと子供には見せられないような表情をしている。この後、お嬢様は午前中ずっと不機嫌だった。
〜〜〜
今日お嬢様を起こしていきたかったのは買い物である。しかし、その買い物もお嬢様の機嫌を損ねてしまったせいで、午前中は何もできなかった。
午後になって、ようやくお嬢様が外に出てくれた。午後も外は快晴で日差しは眩しい。お嬢様は日傘をさす。毎日の手入れのおかげで、庭には爽やかな風が吹く。
「……」
出てくれたと言っても、一言も言葉を発しない。日傘の下はお嬢様の機嫌と相まって一段と暗く見える。
これはまずいな。まだ何を買うかは言っていないから、お嬢様とコミュニケーションを取らなければまともに買い物にならないのに。
「お嬢様、私が悪かったですよ。機嫌直してください。」
「……」
あぁ、ここまで機嫌を損ねるとは思ってなかったな。こんな寝起きドッキリみたいなことは今までやったことなかったからか?それもと従者に悪戯されたことが屈辱的だったか。
「…何が悪かったと思ってるの?」
家を出てしばらくしてようやくお嬢様は口を開いた。
「主人に対して立場をわきまえない行動をとってしまったと深く反省しております。」
「私そんなことで怒ってないんだけど。」
じゃあなんでだ?
「朝不快な目覚めに」
「それでもないんだけど…」
「……」
お手上げだ。もうあとは時間に任せるしかない。現実逃避のため、綺麗な青空を見上げる。するとお嬢様は足を止めて、振り返り俺と向き合う。
「ねえ、私の寝顔、みたわよね?」
「…は?」
何をいうかと思えば、お嬢様は睨みながら当たり前のことを言った。
「だから、勝手に私の寝ている部屋に入って、私の寝顔見たんでしょ!」
「…はい」
「信じらんない。淑女の寝室に入るのは仕事の範疇だけど、寝ているタイミングで入るなんて。」
そんなことで機嫌を悪くしていたのか…
「しかし、お嬢様、いつもは寝坊した時起こさないとなぜ起こさなかったのかと怒りますよね。なので、お嬢様としては私が起こすことに何も感じていないのかと思っていたのですが。」
「あれは寝坊した責任をなすりつけたくて言ってるだけよ。あなたは今まで起こしたことなかったのだから、そこは信頼しての言葉だったのに…しかもいつもは部屋の外で声をかけて起こそうとしているって、言ってたじゃない。」
あ、そうだ、俺自身、実は部屋を開けて確認していることは言ったことなかったな、お嬢様の気持ちは正しい。俺の配慮が足りてなかった。妹を起こすことと同じような感覚でいたが、それはよくなかった。でもそれなら、俺に起こされるまで起きないのはどうかとは思うが。
彼女だって1人の女性だ。これからはそれを意識していくべきだったのだ。
「申し訳ありません、お嬢様。お嬢様への配慮が全く足りておりませんでした。今後はこのようなことがないよう、より精進してまいります。罰ならなんでも…」
「化粧品。」
「え?」
「後で私の化粧品買って。あなたへの給与で。それが罰。いいわね。」
「はい。」
「じゃあさっさと買い物に行くわよ。」
そう言って少しペースを上げて歩き出す。俺への給与は雀の涙ほどしかない(俺には生活に必要なお金はないから給与は学生の小遣い並み)からお嬢様の化粧品を買うと一月分消える。
あぁ、俺の給与が…。でもこれで買い物が滞りなく進むのなら安いモノだ、と思った。
同時に、寝坊している時実はお嬢様の部屋を覗いて生存確認をする際に寝顔を見ていたことは隠さないといけない、そう思った。
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