第2話 一回表

「なぁ瑠偉これは舐められてんだよな?」

「だろうな」


紅白戦当日、俺は余裕綽々で入って来た2、3年を見て、四番捕手を務める相棒と話す。


「俺ら相手に二軍だぁ?あのオッサン何考えてんだ?あぁん?」

「落ち着け、龍空、ぶっ殺すのはプレーでだ」

「打たせて来い、皇成」

「飛んだら頼むぜ」

「ぶっ殺してやんよ」


相良監督を睨むショートのフェルナンド・龍空。

龍空は俺が惚れ込み、東皇にスカウトした。

こいつの才能はそこら辺のショートとは比べ物にならない。

俺はこいつ以上のショートを見たことがねぇからな。


「龍空、俺に合わせろよ、エラーしたら殺す」

「こっちのセリフだ」

「俺のエラーとか見たことねぇだろ」

「俺のも見たことねぇな」

「あぁ」


セカンドの神宮寺豹馬も怒り心頭。

豹馬は俺がスカウトした訳じゃないが俺に着いてきた一人だ。


「柚葉、今夜ディナーでもどうだ」

「結構です、それと柚葉って呼ぶな。」

「なんでだ、俺ほどの男に惚れられたんだ、構わんだろう」

「ナルシストお断りなんで、それに私彼氏持ち」

「昨日もヤッたのか?」

「だったら何」

「皇成、柚葉を抱くなんてオシャすぎるぞ」

「うるせぇ黙れ、それと柚葉を口説くな。

柚葉は俺の女だ」

「皇成、あいつ嫌い」

「俺もだ」


このバカナルシストは成宮遥。

ポジションはセンター。

かなりの実力者だが性格は見ての通りゴミだ。

柚葉は俺の横に来て、睨む。


「柚葉〜、監督役なんだから作戦とか伝えろよー」

「皇成」

「いらねぇよ、作戦は各々好きなようにやる。

この個性派集団ならそれが最適解だ。」


柚葉に話しかけたのは俺世代No.2投手、雷市翔天。

俺は二軍の先輩達に聞こえるように返した。


「だな」

「控えくらい打てなきゃ、夏の甲子園に立てねぇよな。」

「とりま猛打賞だな、エースの馬原にライトでリードオフマンの西川、三番ファースト薬師寺、四番サード長田、五番レフトの倉持はベンチにもいねぇし」

「引きずり出す、それが俺を一番目立たせる」

「皇成、打たれてもいいぜ」

「打たれるわけねぇだろ、この俺が」


瑠偉、龍空、豹馬、成宮、翔天の順で頷く。

俺たちは持ち場へ。


「柚葉、なんで俺の後ろに」

「成宮が嫌いだから」

「あらら」


ブルペンで投げ込みを始めると柚葉は瑠偉の後ろに立つ。

既にアレルギー反応が出ている。


「ラスト!」

「ナイスボール」

「頑張って」

「あぁ、行ってくんぜ、監督」


瑠偉のミットが最高の音を奏でる。

俺はゆっくりとブルペンのマウンドを降り、柚葉の腰を軽くポンと叩き、誰も足を踏み入れてない真っさらなマウンドへ向かう。


「いいマウンドだな、サンキュー、柚葉。

ったく、つくづく最高の女だぜ、お前は。」


しっかりと整備されたマウンドはとても質が良い。

俺の好きな感触だ。

流石は柚葉。

俺の好きな感触を知り尽くしてるな。


「このマウンドで打たれるわけにはいかねぇだろ!」

「ウラ!」


投球練習を終え、ストレートのサインに頷いた俺は思い切り踏み込み、腕を振り切った。

声が漏れる。


「ストライク!」

「す、すげぇ」

「やっぱりやべぇな」


相手ベンチから声が漏れ、見守るスカウト達がペン走らせる。

馬原、西川辺りが目当てだろう。


「見とけ、スカウト共。

今日の目当てを俺に変えてやる。」


2球目のサインはスライダー。

俺は頷き、投球モーションに入った、

相手は左打者。

俺のスライダーが左打者に打たれたことは数えるほどしかねぇ。


「空振れ」


腕を振り切った俺はニヤけ、命令する。

スライダーはバッターから逃げるように曲がって行く。


「ストライク2!」

「決めんぞ、瑠偉」

「流石、相棒分かってんじゃねぇか」


俺はニヤけながら投球モーションに入る。

ラストはスプリットだ。


「ストライクバッターアウト!」

「出て来いよ、西川、叩きのめしてやっからよ。

退屈なんだろ?」


俺は一軍のリードオフマンを務める西川を睨む。

西川は退屈そうに唐揚げ棒を食べている。


────────────────────


「マー、どうだ?」

「素材はトップクラスだな」

「お前よりも?」

「ねぇよ」

「だろうな」


睨まれた西川清太郎はニヤけ、マーこと馬原浩太と話す。


「どうっすか、ニシさん、ルーキー共は」

「おぉ、倉、上玉だぜ、今のところ」

「使えそうっすね」


倉持雄大は舌でペロっと唇を舐めた。

倉持は既に名門大学の内定を貰っており、高卒で上位指名されなかった場合は大学進学と決めている。


「倉、おにぎりおかわり」

「ぶー、一応言っとくが出るかもしんねぇんだぞ」

「大丈夫、僕は天才だから」


ぶーこと長田周平はプロ注目のパワーヒッター。

高校通算本塁打は既に67本。

このままのペースで行けば、高校最後の夏までに100本を楽に超える。


「倉、俺にもくれ、腹減った」

「どこ行ってんだ、薬師寺」

「散歩」

「レオナと遊んでたな」


薬師寺こと薬師寺麗王は高身長と美貌でプリンスと呼ばれるプロ注目選手。

倉持と同じく名門大学の内定を貰っており、上位指名されなかった場合は大学進学予定。


「俺は恋多き男だからな、モテすぎるんだ」

「シーチキンな」


倉持はキレながらおにぎりを投げた。


「サンキュー、倉、お前の女はどうだ」


麗王は片手でキャッチし、フィルムを剥がす。


「レオナより良い女だ」

「お前はレオナの魅力がわかっていない。」

「俺はケツ派だ」

「ケツはダメだ、男なら巨乳一択だ」

「黙れ、琴乃のケツは日本一だ」

「貧乳だけどな」

「85だぞ、どこが貧乳だ」

「レオナは97だ。90以下は貧乳だろ」

「世の女性に謝れ」

「俺には俺の美学がある」

「やれやれ〜、美学を証明しろー」

「勝ったら、ご褒美におにぎりあげるよ」


喧嘩を始める二人を西川達は笑いながら煽る。


────────────────────


「自分の女で喧嘩とか余裕だな、てめぇら。

訂正してやる。」


二者連続三振でツーアウトを取り、ラストバッターを追い込んだ俺は振りかぶり、エースの雰囲気を溢れ出す。

ーーてめぇらがホンモノならこれで昂るはずだ。


「No.1は柚葉だ!

俺の女が世界一なんだよ!」


俺は思い切り腕を振り切り、心の中で叫ぶ。


「ッシャー!!どうだオラァ!」


俺は雄叫びを上げ、激しくガッツポーズした。


「本気で来いよ、監督」


俺は相良監督を睨む。

ーー潰すぞ


────────────────────


「おもしれぇ、最高だな、神室」


相良は心を昂らせる。

ーー5点取ったら出してやるよ


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