運命にサヨナラ

 運命の人がいるって信じてる。でも、離れ離れになることもあるって知っている。

 サヨナラ、運命。私の大好きだった人。


 彼とは本当に何気ないことで知って、仲良くなった。たまたま隣に座ったとか、たまたま帰りが一緒の道とか、たまたま同じゲームをしていたとか、例えるならそんな「偶然」と「何気ない」で出会った。

 恋人になるのも当たり前で、それぐらい一緒にいて楽しかった。男性って怖いし、警戒するし、女性の私から搾取するものだって思ってたから本当に隣にいて楽しいっていう人は初めてだった。

 私は救いようの無いぐちゃぐちゃな中身だし、どうしようも出来ない家庭環境と過去があるのに忘れられた日々だった。

 心が繋がるってこんな感じなんだって分かった。体の相性も良かったと思う。でも、それでも運命って「絶対」じゃないんだ。だから「サヨナラ」だってあるんだ。

 生物学において、野生界においてメスってDNAを選ぶらしい。自分のDNAを残したいたくさんのオスから優等種を選ぶのがメス。だから私が男の人から嫌なことされたのも生物学に当てはめれば当然なのかもしれない。私が人間だから対抗すべき術を持ってないだけ。野生界のメスはオスより強いから。

 だから私とあなたはDNAは相性良くても運命にはならなかっただけ。何も悲しい事じゃない。私は子供が産めないし。メスとしての役目は果たせないから。

 でもきっと、あなた以上のDNAがないなって探すんだろうな。所詮、私はメスだもん。良いDNAを探すのが本能的な役目だもん。

 ほんの一瞬だけ、私は人間でいられたな。生物って思ってるのが楽で私は私のことも周りのことも生物としか見てない。だから、失恋しても「DNAが合わなかったんだ」って悲しくないし、何かあっても科学で片付けてしまう。人間だと誰かに触れるのが気持ち悪いんだもん。生暖かい温度は私が知らずに育ったもの、共依存の始まりだから知らないでいようとしてた。

 私は人に抱きつかれるのも手を握られるのも気持ち悪いし、私の知らない方がいい世界だと思っていたけれど、あなたの体温は遠い昔から知ってるみたいだったよ。今世とかじゃなくて前世とかそういう遠い遠い昔。

 ねえ、あれから他の男にも会ったよ。あなたよりカッコいい人、お金のある人、私を誰よりも好きだと言ってくれた人いたけれど、結局フッてしまうんだ。どの人と話しても違うってなってしまうの。私が求めているのは、たった一つのお菓子を二人で分け合えるような人なんだ。私の見えないところで、私には何一つ素振りを見せずに、考えて行動している人なんだ。

 それってきっとあなただったんだよ。だってあなたは何だって半分こにしてくれたじゃん。

 一つのクッキーも、会計も、幸せの時間も、悲しいことだって。

 私、嬉しかったよ。あなたが辛いことも話してくれてさ。

 でも、悲しかったんだ。あなたが最後は何も辛いこと言ってくれなくなったの。信じてたのにね。

 私、もうこれから恋が出来なくてもいいの。あなたといた記憶があればこの先、一人でも楽しく暮らせる気がするの。あれから私も強くなったし、大人になったからもう大丈夫だよ。今の私と付き合っていたらあんなことなんてならないよ……そう言いたいけれど言わないよ。言ったら困らせてしまうから。

 だからこれだけは許して。あなたの記憶をⅮNAの一部にして、約束してた子供の代わりに私が出会った子供に幸せな記憶として教えて、死ぬ時は一部になったⅮNAと一緒に死なせてね。

 サヨナラ、運命。ワガママ言わないって決めたけどこれは言わせて。

 来世はどんな形でも出会えるといいな。

 

 

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