本当に怖いのは……

 まじか。迷子になっちまったよ、愛莉のやつ。探すか。

 まあ、探すといってもリンゴ飴の屋台に行けばいいんだけどな。

 今頃、財布なくて焦っているかもな。


 とりあえず前に進んでみる。


 リンゴ飴の屋台が見えてきた。

 今の愛莉は目立つからな。すぐに見つけられる。


「……あれ?いない」


 リンゴ飴の屋台には数人並んでいて列になっていた。

 でも、その中に愛莉の姿はなかった。


 もしかして、すれ違った?

 愛莉が途中で俺がいないことに気づいて戻ってきたんじゃ?


 あ、普通に電話掛ければいいじゃん。

 俺は愛莉に電話をかける。

 すると、すぐに繋がり愛莉の声が聞こえた。


「ゆうくん!助けて!」


「はい、電話ダメー」


「え、彼氏さん?おーい聞こえてる?あんたの彼女さん借りるねー」


 一方的に切られた。

 しかも、知らない誰かの声が二つあった。


 おー、まじか。

 この一瞬でナンパか。


「え、やばくない?やばいだろ。え、え、やばい」


 お、落ち着け。

 こんな人多かったらしらみ潰しに探しても見つかるかどうか。

 もう、電話は使えないし。


 待て、今こうして悩んでる間にも愛莉は……。

 俺の頭に最悪の光景が浮かぶ。


 とりあえず聞いて回ろう!

 誰かしら見てるはずだろ。


「あ、あの水色の浴衣着た黒髪ショートの可愛い女の子見ませんでしたか?」


「いや、見なかったな」


 とにかく聞いて回るしか。


 くそっ。

 誘拐だろ!



◇◆◇◆◇◆



 3人目に聞いて回ってようやく情報が手に入った。

 それっぽい人が男二人と森に行ってたって。


 俺は急いで向かう。


 電話してもう2、3分。無事でいてくれ。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」


 どこにいるんだ?

 森と言っても森のどこかは分からないし。


 まじで、どこだ?


「……神社あったよな?」


 ずっと前に行った記憶がある。

 もう、そこに賭けよう。



◆◇◆◇◆◇



「はあっ……愛莉っ!!」


 神社に辿り着いた俺は声を上げる。


 いてくれ!頼む!


「……ゆうくん?」


 木の傍で探していた声が聞こえる。


「愛莉……っ!?」


 愛莉はいた。

 いたけど、木の傍に膝を抱えて座り込んでいた。

 浴衣が微妙にはだけて、下駄も片方ない状態でだ。


「愛莉っ!」


 走り寄って、抱き締める。


「ごめん、遅くなって!ごめんっ、本当にごめんっ!!」


 もっと早くついていればっ!

 いや、あの時離れなければっ!


 俺に後悔か襲う。


「……ゆ、ゆうくん、今はダメっ!汚れたから!」


 愛莉が慌てる。


「ばかっ、汚れてるわけないだろ!」


「汚れたから!一回離れて!」


 愛莉が必死に俺の肩を押す。


「嫌だ!もう離さない!」


 俺は抵抗して強く抱き締める。


「えっ!?う、嬉しいけどっ、やっぱりダメっ!!」


 思い切り押されてしまい、離される。


「さ、さっき汗かいて汚れちゃったから!こういうのは、シャワー浴びてからしよ?」


 ……。


「…………ん?」


 何だか俺が思っていた汚れてると違っているんだが。


 つか、今さらなんだが、男はどこだ?

 人目がつかない森に行ったってことはそういうことだろ?

 だとしたら、5分も経っていないのに、どこ行ったんだろ。5分で済ませたというわけでもないだろ。


「あー、愛莉?」


「何?」


「男二人は?」


 俺は思いきって聞いてみた。


「あいつら?それなら、スタンガン当てて転がしたよ?」


 ……表情を変えずにころっと言う愛莉。

 え、スタンガン?どうしてそんなの持ってるの?


「急に襲って来たんだよ!私はゆうくんのだって言っても無視して!それに、『そんなやつより、俺らの方が良いっしょ?』とかほざいてたから」


 こわ。

 愛莉こわ。

 しれっと、愛莉が俺のものになってるのも怖い。


「でも、その時にスマホが壊れちゃって。連絡できなくてごめんね」


「い、いや、こうして再会できたし」


「そうだね!」


 えー、こわ。


「それと、下駄も片方どっか行ちゃった」


 えへへと、笑う愛莉。


「俺がおぶって帰るよ」


「……汗臭いからなぁ。でもいっか!ありがとう!」


 『助けて』とはなんだったんだろう。

 愛莉一人で解決したんだが。


 ま、まあ、愛莉が無事で良かったよ。

 ひっそりと胸を撫で下ろす。


 と、そこで、空に一輪の水色の花が咲く。

 祭りがもう終わる。

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