過去形?
2日目、俺たちは朝から水族館に来ていた。
「小川くん、次はあそこ行きましょう!」
「おお」
いつもクールなのに、今日はテンション高いな。
俺の手を掴んで小走りで移動する。
移動した先はクラゲのいる水槽だった。
下から青白い光が差し込み、その光を無数のクラゲが受け、ほんのりと光って見える。
幻想的で、ここで立ち止まって見ている人も多い。
これが見たかったのか。
「早川さんが小走りになるのも分かるよ」
「わ、私小走りだったかしら?」
薄暗いここでも分かるほど早川さんの顔が赤くなる。
無意識だったんだ。
「そんなにクラゲ見たかったんだな」
「そんなことないわ」
あはは、否定しなくてもいいのに。
「……小川くんとデートしてるからよ」
「ん?なんて?」
人が多いからか喧騒でかき消されて聞こえなかった。
「何でもないわ」
「そうか」
昼ごはんを済ませてからは、イルカのショーを見に行った。
「凄い!」
これまた早川さんのテンションが高かった。
いつもとギャップが凄いな。
「そうだな!」
俺も高いんだけども。
いや、伝播するんだよ。早川さんのテンションが。
◇◆◇◆◇◆
「小川くん、次はあれ!」
「おう」
早川さんが指差す方には高くて高いジェットコースターがあった。
高いな。
3日目の早川さんもテンションが高くて恐怖心をどっかに置いてきたらしい。
俺も捨てたいところだが、必死にしがみついてくる。
結局列に並んでいる。
なんだあれ。一回転するぞ。それも2回。
あんなところから落ちるのか。
キャーっ、と断末魔が上がる。
あー、逃げたい。
「楽しそうね!」
「そうだな」
いや、普通に無理なんだか。
今さら後悔し始めた。
でも、もう戻ることなんてできないし。
進むしかないんだよな。
黙って死を待つしか。
あぁ、とうとう順番が回ってきてしまった。
「楽しそうね!」
「……そうだな」
結果としては、終始みっともなく叫んでしまった。
◆◇◆◇◆◇
「結構あっという間に終わったな」
「そうね」
空は紅く染まり、もうすぐ遊園地を出て解散だ。
三日間楽しかったな。何のハプニングも起きなかったし。
「最後にあれ乗りたいわ」
早川さんが指差す方向を見れば観覧車があった。
「いいぞ」
あれなら余裕だ。
俺たちを乗せて少しずつ上がっていく。
夕日が差し込みちょっとまぶしい。
おお、綺麗だなあ。
頂上まで行くと、海が見えた。
夕日の光を海が反射して紅く輝いている。
「小川くん」
「ん?どうした?」
対面して座る早川さんが俺を見つめている。
景色見ないのか?
そんなこと思ってしまうが、早川さんは真面目な表情をしている。
そして、口を開いて、
「好きでした」
「…………ん?」
あれ?聞き間違いじゃない、よな?
好き『でした』って、今は好きじゃないのか?
「好きでした」
早川さんが真面目な表情で再度言う。
「えっと、言葉通りに受け取っていいなら今はもう好きじゃないということなのか?」
「ええ」
淡々と答える。
「そ、そうなのか」
中が静寂に包まれる。
なんて言うべきなんだろう。
「気にしないで。ただ、伝えたかっただけよ」
早川さんは笑顔でそう言った。
微妙な空気になりながらも、俺たちは電車に乗り、駅で別れた。
少しだけ俺の心は晴れなかった。
◇◆◇◆◇◆
これで、良かったのよ。
最初から決めていたじゃない。
この旅行で小川くんが一度でもそんな素振りを見せなかったら潔く諦めるって。
そして、小川くんは一度も素振りを見せなかった。
叶わぬ恋は捨てて、新しい恋を見つける。
それが、合理的なの。
私の恋は運命じゃないの。
小川くんを好きになったのなんてただのザイオンス効果。単純接触効果よ。
小川くんじゃなくても良かった。
別の人でも良かった。
例え、初恋だったとしても。
初恋なんて特別なものでもない。
なのに、どうしてだろう。
涙が止まらない。
嗚咽が止まない。
その日の夜、私はひっそりと枕を濡らした。
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