普通に平和だ
二泊三日の旅行と言っても、高校生だし行くのは県内のホテルだ。
何をするのかっていうと、2日目に水族館、3日目に遊園地。
今日はホテルで寝るだけだな。
「ごめん、待ったか?」
今日の朝に一度家に帰り、荷物をまとめて来たんだが、結構待ち合わせ時間ギリギリになってしまった。
待ち合わせ場所の駅前には当然のように早川さんが大きなバックを持って立っていた。
「いいえ、今来たところよ」
たぶん待ったやつだな。
本当にごめん。
「じゃあ行こっか」
「ええ」
俺と早川さんは一緒に電車に乗り込む。
目的地まで少しだけ遠い。
「小川くんは夏休み何をしてたの?」
電車に揺られながら、早川さんが尋ねてくる。
えーと、答えていいんかな。
何気ない質問だったけど、色々と普通じゃないことばかり起こっていたから躊躇ってしまう。
「まあ、遊んでたな」
うん、嘘は言ってないな。
「楽しそうね。でも宿題はきちんとしないと駄目よ?」
……まさか、お母さん以外にそんなこと言われるとは。
つか、やってない前提なのね。やってないけども。
「はーい」
やれてない原因、半分ぐらい監禁のせいなんだけどな。
それからも、ありきたりの話をして、あっという間に目的地に着いた。
なんか、普通だ。
良い意味で。
◇◆◇◆◇◆
ホテルに入ってからは、一緒にご飯を食べて、温泉に行った。もちろん男女分かれてる。
そして現在は、俺の部屋に早川さんが来てトランプをして遊んでいる。
俺の手札は残り二枚で、早川さんが一枚。
今まさに早川さんが引こうと手をのばす。
「こういうのは、大抵利き手の方にババがあるって何かの本で言ってたわ」
「それはどうかな」
早川さんが俺から見て左側のトランプを引く。
それは、見事ババじゃないほうのトランプだった。
「やったわ!」
早川さんが嬉しそうに笑う。
俺もつられて笑顔になる。
平和だ。
他の部屋には人がいるんだぞ?
どこかのお嬢様が所有しているプライベートビーチとは違う。
俺たちの部屋がきちんと分かれてるしな。
どこかの男と同じ部屋で寝る幼なじみとは違う。
「ときに小川くん、この格好見てどうも思わないのかしら」
ふと、早川さんがそんなことを尋ねてくる。
早川さんは少しだけ不満げな表情をしていた。
格好って、浴衣……あ、そういうことか!
「大人っぽくて似合ってるよ。綺麗だと思うよ」
「あ、ありがとう。小川くんも似合ってるわよ」
「ありがとう」
それからは、もう少しトランプで遊んで早川さんが部屋に戻っていった。
うん、平和だ。
これが普通なんだろうけど、平和だ。
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