脱出不可能の要塞

 そういえば、ずっと忘れていたことがある。

 早川さんと二泊三日の旅行だ。

 事前に予定を立てた日はまだ過ぎてはないけど、それなりに近い。つか、明後日なんだが。

 行けばいいだろ、と思うかもしれない。

 その通りだ。

 別に行きたくないわけではない。


 だが、行けないかもしれない。


 だって、今監禁中だしな。出れないんだよな。

 かと言ってすっぽかすわけにはいかないし。


 いっそ正直に言うのは?

 そうだな。愛莉はヤンデレになって日が浅いはずだし、事前に約束していたとか言ったらOKしてくれそうだ。

 行けそうじゃないか?


 と言うことで、隣に座り必死に手を動かす愛莉に聞いてみることにした。


「愛莉、明後日から早川さんと二泊三日の旅行に行きたいんだけど、」


「は?」


 愛莉がテレビから視線を外し俺に顔を向ける。


 怖い。


 怖かったので、俺はテレビから顔を逸らさない。

 無心に指先を動かし画面の中のキャラクターの乗った車を動かす。

 愛莉の車は既に止まっていた。


 やった、これ勝てるなー。


「ゆうくん、今なんて言ったの?」


 愛莉がさらに近寄って問い詰める。


「……明後日から早川さんと観光に誘われたんだけど、行ってもいいかな?」


 少しだけ、言葉をマイルドにしてみた。

 その間、俺の車は未だに走り続けていた。


「何日?」


「……何日だろうな?」


「……」


「………………二泊三日です」


「断って」


 ですよねー。

 どうしようか。流石にドタキャンは無理だぞ。早川さん泣くぞ。


 あ、ゴールした。

 やったー、一位だ。


 それと、同時に俺の頬に手が掛かる。

 ぐいっと無理やり目を合わせられる。


「断って」


 真顔で告げる愛莉。目の光が消えてる。ガチだ。

 でも断るのはダメだ。


 切り抜けるしかない。


「……安心してくれ。部屋は別々だ」


 俺は愛莉にそっと微笑みかける。

 ほら、だんだんと愛莉の瞳に光が……


「そんなことは当たり前でしょ。でも、断って。ゆうくんと私以外の女が二人きりになるなんて許せない」


 あ、ダメだ。

 え、無理だ。


 どうしよう。


 と、そこで愛莉のスマホが着信音を発する。

 愛莉はスマホをチラッと見て少し時が止まる。


「……ちょっとだけ待ってて」


「あ、うん」


 愛莉が立ち上がり部屋を出る。

 誰からだったんだろう。


 数分後、愛莉が戻ってきた。


 あれ?怒ってる?

 少しだけ眉が上がっている。


 愛莉は流れるように俺の目の前に座る。


「……行っていいよ!」


「え?」


 思わず耳を疑った。

 まさか愛莉が許可を出すとは思わなかったから。


 電話だよな……?

 誰からだったんだろう?


「でも、絶対に戻ってきてね」


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る