裏切り

「もしもし、ゆうくん?!」


 思わず大きな声になるけど仕方ない。

 だって、まさかゆうくんから電話が来るなんて思ってもなかったから。


「いえ、東雲忍という者です」


 でも、スマホ越しに聞こえる声はゆうくんのものではなかった。


「……どうしてあなたがゆうくんのスマホを持ってるのッ?!ゆうくんを返してッ!」


 スマホに怒鳴り付ける。


「……優良様はあなたのものではないですよ?しかし、お嬢様、ひかり様のモノでもない」


「何言ってるの?!」


「まず、優良様は無事です」


 は?どういうこと?どうして、あなたがゆうくんの情報を流すの?

 ……煽ってるの?ゆうくんがひかりのモノになるのを悠々に見とけって?


「ふざけないで!ゆうくんを返してって言ってるの!」


「無事というのは、心身はもちろん、優良様が未だにひかり様のモノにはなっていないと言うことです」


「だから、それがなんだって言うの?!」


 意味が分からない!

 このまま行けばゆうくんはひかりのモノになるって?


「お願いです。ひかり様をお助けください」


「嫌よ」


 どうかしてるんじゃないの?

 どうしてゆうくんを奪った張本人を私が助けなきゃいけないの。

 邪魔してやりたいぐらいよ。


「聞いてください。きっと愛莉様にとっても悪い話じゃありません」


 ……まあ、忍もバカではない。忍がそういうのなら聞いてみようかな。


「わかった」


「ありがとうございます。優良様が、今いる場所をお伝えします」


「え?」


 予想外の言葉に頭が真っ白になった。


「どうかひかり様をお助けください。優良様を奪ってください」


 ……どういうこと?

 どうして、それがひかりを助けることに繋がるの?

 でも、ゆうくんを取り戻せるのならどうでもいいや。


「意味は分からないけどいいよ。ゆうくんを取り戻すわ」


「ありがとうございます」


「『取り戻す』よ?ゆうくんはひかりのモノになんかなってないから」


「……そうですね。ひかり様がこの手をお使いになる前に止めるべきでした」


 一段と暗くなる忍の声。

 はあ、もともと明るくない声なのに……。


「そういうの興味ないから、自分だけでやってて」


「はい。それでは、優良様の場所を伝えますね。――です」


 なるほどね。意外と近かったのね。

 たぶん、この情報は嘘じゃない。


「では、失礼します」


 忍が通話を切る。


「待っててね、ゆうくん」


 今回は油断した。

 でも、もう二度と手放さないから。

 もう誰にも渡さない。

 私のだ。

 私のゆうくんだ。

 小さい頃からずっとずっと私のだ。


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