運命の人に会わせてくれるって

 愛莉の予行練習が成功した翌日。

 図書委員の仕事で図書室に来ていた。

 来ていたんだが……早川さんの様子がかしい。


「お、俺何かしたか?」


「ううん、何もしてないよ?」


「そ、そっか」


 一件、普通に会話しているように見えるだろうけど、早川さんの視線はずっと本に釘付けだ。何故か目が合わない。

 そして、距離が遠い。人が3人入れるぐらいには遠い。

 何だか、物理的にも精神的にも離れた感じだ。いや、絶対そうだ。


「なあ、やっぱり俺何かしたか?できれば言ってほしいんだけど」


 このままは少し寂しいし、気まずい。


「……彼女できたんでしょ?私なんかと話していたら愛莉に勘違いされるわよ?」


「へ?」


 これって昨日のことだよな?

 なんで知ってるんだ?それに、勘違いしてるし。


「早川さん、昨日の聞いてたの?」


「ええ、放課後に小川くんが屋上に行くのを見てつい。ごめんなさい」


 ここで、初めて俺に視線を合わせて謝る早川さん。


「本当に聞いてたのか?まあ、聞こえなかったのか。早川さん、俺と愛莉は付き合ってないぞ?」


「え?」


 早川さんが目を丸くする。

 やっぱり全部が聞こえてたわけではなかったか。全部聞こえてたなら勘違いしうがないからな。


「あれは、愛莉が俺を相手に予行練習してたんだよ」


「え、い、いやそんなはずは……。だって愛莉の好きな人って、え?」


 どうやら、まだ信じていないようだ。


「あのな、愛莉も俺もお互いのこと家族に近いものって思っているんだ。付き合うなんてないよ」


「……そうなのね」


 やっと分かってくれたか。


「……少なくとも小川くんにそのつもりはないのね。だとしたら、まだ私にもチャンスはあるわ」


「ん?なんか言ったか?」


「何も言ってないわよ。それより、小川くんは誰かと付き合ったりしないのかしら?」


 ずいぶんと唐突だな。


「そうだな。付き合いたいとは思うけど、なかなか異性を好きになれないんだよな」


 なんでだろうな。昔に、好きな人いた気がしたんだけど、もう思い出せない。


「じゃあ、今好きな人はいないということね?」


「ああ。運命の人とかに会ってみたいかもな」


 案外、もう出会っていたりするかもな。

 て、いつも愛莉といるせいで異性と関わる機会なかったわ。


「じゃ、じゃあ試しにつ、つつつ付き、合ってみる?」


 早川さんが顔を赤らめて伏せる。

 「試しに会ってみる?」って言ったか?運命の人にか?

 ははっ、早川さんも冗談を言うんだな。


「じゃあ、お願いするよ」


 俺は笑顔で頷く。


「本当?!」


 早川さんが大きな音を立てて立ち上がる。

 まさか、冗談を真に受けるとは思ってなかったんだろう。


「嘘だったのか?」


 俺はいたずらな笑みを浮かべる。


「ううん、じゃ、じゃあこれからよろしくね?」


 これから?何の話だろう。


「ああ、よろしくな」


 分からないけど合わせとこう。



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