予行練習の相手にされた

「優良、あなた宛に手紙来てたわよ」


 土曜日の朝。朝ごはんを食べているとお母さんが一つの手紙を手渡してきた。


「珍しいな。ありがとう」


 俺はそれを受け取って部屋に向かった。


 ベッドに横になって手紙を読んでみる。



『小川優良くんへ

 あなたの瞳が好きです。綺麗な黒い瞳が好きです。その瞳に私が写ったときは、私を見つめてくれてるって感じるからすごく好きです。指が好きです。細くて長いその指が触れたときにいつもドキッとします。歩き出すときに必ず右足から出すのが愛おしいです。食べるときに毎回いただきますを言っているのが愛おしいです。必ずご飯を100回咀嚼するのが愛おしいです。……(略)好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです』



 俺はいつの間にか背を起こしていた。


 怖い。

 なんだよ、これ。俺ですら知らないことがめっちゃ書かれてあったんだが。


 つか、これあれだよな?

 愛莉じゃね?


 うん。この前教えたやつだろ。


『少し練習するね!』


 とか1週間前に言っておきながら、何で俺に手紙送ってんだよ。


 俺は脳を回す。


「まさか、俺の策を信じていない?」


 俺の策を疑っている愛莉は確認のために俺を使って予行練習。そして、俺が惚れたら策を信じて好きな人に改めて実行する。


 そういうことか。


「どうして、とは言わないよ。初恋なんだから、絶対に成功させたいんだろ?」


 仕方ない。騙されてやるよ。


 俺はベッドに横になった。



◆◇◆◇◆◇



 2日目。


 また同じような手紙が来た。

 一応読んだけど怖い。


 俺を相手にどこまで見てるんだろう。



 3日目。


 わからない。愛莉本気出しすぎでは?俺にじゃなくて好きな人にこの熱量を出してくれ。


 でも、この熱量をぶつけることができれば、絶対成功するはずっ。


 にしても、一緒に登下校したとき何の違和感もなかったな。俺は会うとき結構ドキドキしたのに。



 4日目


 まずい。脳が壊れる。

 俺の知らない情報まで入ってきてる。愛莉ヤバい。



 5日目


 6日目


 7日目


 やっと終わった。これでようやく告白だ。


 でも、俺の思惑通り、この一週間は手紙のことしか頭になかった。これが、吊り橋効果か!

 これは行ける!



「ゆうくん、今日の放課後、屋上に来て」


 朝、登校中愛莉がぽつりと言う。

 やっぱり来たか。


「ああ」


 放課後が待ち遠しいな。

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