幼なじみは潜まない

「ゆうくん?それはダメだよ?」


 愛莉のその言葉に頭が冷めた。


「そ、うだよな。うん、俺が間違ってるな」


 これは、ひかりの身体を汚すの同然の行為だ。

 付き合ってもいないのに、それはダメだな。


「ひかり、こういうのは好きな人とやった方がいい」


「そうですね。少しおかしくなっていました。すみませんでした」


 ひかりが礼儀正しく頭を下げる。


「いいって。それじゃ食べよっか」


「そうですね」


 それにしてもどうして愛莉がここにいるんだろう。教室で友達と食べていたはずなのに。

 たまたま寄っただけか?こんな何もないところにか?


 俺は考えながら自分のスプーンを……あ、

 このカレーどうしよう?


 俺のスプーンなんだが、ひかりのカレーが。


「ゆうくん」


「ん?」


 愛莉に呼ばれて振り向く。


「はむっ」


「「あ、」」


 俺とひかりの声が重なる。


 俺のスプーンからカレーがなくなっていた。


 え、俺たった今こういのは好きな人とって……

 ま、まあ幼なじみだから間接キスぐらい今さらなんけど。

 なんだけど、愛莉好きな人いるよね?その人に見られてもいいのか?


「なにー?」


 愛莉が首をかしげる。


 この顔は何とも思ってないな。もう俺も考えるのやめよう。幼なじみだから。な?


「あ、今からは私がひかりちゃんに食べさせてあげるから、ゆうくんは自分の食べてていいよ?」


「そうか?ひかりも同性の方が良いだろうしお願いするよ」


 俺は自分のカレーを食べる。


「じゃあ、ひかりちゃん食べようか?」


「……お、お手間おかけしてすみません」


「ううん、そんなことないよ?」


「で、ではお願いします」


「はい、あーん」


「……」


「きゃーっ、赤ちゃんみたいで可愛い!赤ちゃんみたいで可愛いー!!」


「こ、声が大きいですっ。は、恥ずかしいのでおやめください!」


「はーい」


 へぇ、愛莉とひかりって仲良かったんだな。



◆◇◆◇◆◇



 ひかりの部屋にて。


「力になれず、すみませんでした、お嬢様」


「いいのよ。あれは仕方ないことよ」


 そういってひかりはケーキをフォークで上品に食べる。


「それに、念願のあーんもしてもらえましたので満足です。間接キスについては残念ですが」


「すみません、愛莉様を止められませんでした」


 忍が顔をうつむける。


「いえ、仕方ないことですわ。優良さんに忍がいることを悟られてはいけないと言ったのは私ですから」


 それでも不本意なのか忍が声を出す。


「お嬢様にはずかしめられているのを黙って見ることしかできませんでしたっ」


 少し頬を赤くするひかり。


「確かに、赤ちゃん扱いは恥ずかしかったです。ですが、いいのです。あーんをしてもらえたのですから」


「そうですね、今まであーんをした甲斐がありました」


 ひかりは、再びケーキを口に入れる。自分の手で。

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