食堂にも潜む

 週に一回は学食に行くという自分だけのルールがある。いつの間にかできていた。

 そして、今日がその日なので俺は食堂に向かっていた。


「あ、優良さん」


「やっぱりいたか、ひかり」


 食堂に着くと見知った金髪の美少女が最後尾に並んでいた。

 同じ制服なのに、何故か周りの女子よりも上品に見えるな。決して、周りの女子が下品に見えてるわけではないからな?


 俺とひかりはなんて言うか、たまに一緒にご飯を食べる仲だ。

 たまにと言うのは、俺が学食に来る日。

 ひかりは毎日学食に来ているのか、よくはちあわせる。それで一緒に食べてるんだ。


「んー今日はカレーの気分だな。ひかりは何にしたんだ?」


「私もカレーというものにしました」


「おー、同じだな」


 ひかりの発言から分かる通り、ひかりはおそらくカレーを今までに食べたことがない。

 というか、ひかりは初めの頃、学食にあるメニューのほとんどを食べたことがないとか言っていた。


 ひかりは西園寺と言って、日本で知らない人はいない程有名な家の娘らしい。らしいというか事実なんだが。

 高校に入るまで家で出る料理しか食べたことなかったそうだ。たぶん高いやつ。


 カレーを受け取った俺たちは席につく。


「ん?そういえば東雲さんは?」


 俺はいつもひかりの傍にいる侍女がいない。


「忍なら教室で食べていますよ」


 へぇ、侍女にも自由あるんだ。絶対に離れてはいけないみたいなルールがあるんだと思ってた。


 あれ?ちょっと待てよ。


「ひかり、今日はどうやって食べるんだ?」


「まあ!どうしましょうか」


 ひかりが口を押さえて驚く。


 ひかりは、お嬢様だからなのか一人で食事ができない。

 そのため、食べるときはいつも東雲さんに食べさせてもらっていた。


「優良さん、よろしければあーんをしていただけませんか?」


 あーんか。


「それはまずいな」


「やはり、嫌ですよね」


 ひかりが目元を押さえる。


「え、あ、いや嫌ではないけど、その勘違いされるぞ?」


「まあ、そのようなこと気になさらなくて大丈夫ですよ?」


「そうか。ならやるか」


 俺はひかりからスプーンを取りカレーを少しすくう。


「あーん」


 ひかりが目を閉じて小さく口を開く。

 俺はゆっくりとスプーンを入れる。


「んっ」


 なんだろう。このいけないことをやっているような背徳感は。

 いや、これは深く考えてはいけない。抜け出せなくなる。そう本能が訴えかけている。


 俺は思考を振り払うように自分のスプーンを取り、自分のカレーを口にかきこむ。


「ひかり、次行くぞ」


「……はぃ」


 俺はひかりのスプーンでカレーをすくいひかりの口に入れる。


 そして、すぐさま俺のスプーンを取り俺の口にかきこむ。


 いいぞ!これで良い感じに中和される!


「あのぉ」


 カレーをかきこんでいるとひかりが話しかけてくる。


「ん、ああ、次な……ん?」


 俺は自分のスプーンを置こうとしたんだが、ひかりの手によって遮られた。


「わざわざスプーンを持ち変えるのは難儀でしょうから、優良さんのスプーンでよろしいですよ?」


「……ぇ?」


 俺は膝から地面に落ちそうになった。


「あ、もちろん優良さんが嫌でなければですが」


「い、いい嫌なわけがないだろう?」


 俺は自分のスプーンを手に持ちひかりのカレーをすくう。

 

 ごくり。


 そして、目をつむり、かすかに開くひかりの口へと、


「ゆうくん?それはダメだよ?」


 僅か数センチ、俺の手は誰かに阻まれた。


「あ、愛莉?」


 顔を動かせば、無表情の愛莉がそこにいた。

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