図書室に潜む

「悪い、遅くなった」


 昼休みになり、図書委員である俺は図書室に入る。


「いいわ、忙しくなかったし」


 カウンターの椅子に腰かけ、本を読む少女は気にしてないように答える。


「そっか」


 彼女は同じ図書委員の早川沙織。

 黒髪ロングの美少女だ。愛莉と同じぐらい可愛いんじゃないかな?

 彼女のことが好きだっていう男子は結構いる。

 それから、テストで毎回学年一位で、毎日図書室に籠っている。昼休みも放課後も。


「にして、今日はなんて本を読んでるんだ?」


 俺は早川さんにいつもと同じ質問をする。


「今日は恋愛小説よ」


「へぇ、早川さんでも恋愛小説読むんだね」


 少し意外だな。いつも、物静かでクールなイメージだったから。


「私だって興味はあるわ。それに、気になっている人だっているのよ?」


 早川さんが視線を本から外して俺を見ながら言ってくる。


「おぉ、早川さんもか!」


「……まるで恋愛小説の主人公ね」


「ん?なんか言ったか?」


「いいえ」


 まあ、いいや。


「実は、愛莉にも気になる人がいるらしくて恋愛相談を受けたんだよな」 


「それで、小川くんは何てアドバイスを送ったの?」


「相談されといてなんだけど、俺って恋愛経験なくてな。めっちゃ調べて、ヤンデレにすることにしたんだ」


「なるほど……小川くんはヤンデレ好きなの?」


 俺か。ヤンデレについてはあまり詳しくないんだけど、調べてみた限りじゃ、


「あまり好きじゃないな」


 だって怖いもん。

 でも人気あるから需要は高いはずなんだよ。俺がたまたま刺さらなかっただけで、愛莉の好きな人には刺さるはず。


「そう、まあ気にすることないんじゃない?愛莉ほどの美少女よ。上手く行くわ」


「そうだよな。ありがとう」


「私は何もしていないわ。余談なんだけれど、幼なじみはヤンデレって何かの本で言ってたわ」


 へぇ、でもいつも笑顔の愛莉はたぶん違うな。

 それに、たった今ヤンデレにしようとしてるところだし。



◇◆◇◆◇◆



「ゆうくんが他の女と話してる。それに、距離も……」


 図書室の本棚の隅から2人の様子を覗く影が伸びていた。

 言わずもがな愛莉だ。

 しかし、そこには優良が知るような笑顔の愛莉ではなく無表情の愛莉がいた。


「はっ、でもこれは図書委員の仕事だから仕方ないよね!でもあんなに仲良さそうに話す必要はあるのかな?せめて、会話の内容さえ聞こえれば……でもこれ以上近づけば見つかる可能性が」


 聞きたくても聞けない。

 そんな思いが愛莉の中に怒りを生む。


「本来ならそこは私のポジションなのに。私だって図書委員なりたかったのに、あの女が……。ゆうくんもゆうくんだよ。私がいるのに他の女と話すって浮気だよ?気づいてないの?その女、ゆうくんのこと狙ってるよ?」


 愛莉の口から漏れ出るように出てくる。


「はっ、だから図書委員なんだから仕方ないんだってば!どうしちゃったの、私」


 ヤンデレ化計画。


 優良が考えたそれは、奇しくも愛莉の奥底に眠るヤンデレとしてのもうひとつの人格を呼び起こす結果となってしまった。

 幼なじみ愛莉はヤンデレだったのだ。

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