ヤンデレ製造

「ゆうくーん!」


 放課後になるなり、愛莉が俺の席に走り寄ってくる。

 同じ教室なんだから急ぐ必要ないってのに。犬みたいだ。


「ん?なんだ?」


「デートの練習がしたい!」


 あー、昨日のことか。


「愛莉、そんなことしなくても大丈夫だ。好きな人を絶対に落とせる方法を見つけたんだ」


「え?!本当?」


「ああ、お前の初恋は必ず実る!」


「やったぁ!」



◇◆◇◆◇◆



「まずな、手紙を入れるんだ。好きな人の家にあるポストみたいなとこに」


「なるほどぉ」


 愛莉が頷く。


「内容はその人の外見のこととか細かなとこまで誉め尽くす。そして、余白を好きで埋める!最後にこれは大事なんだけど、名前は書かないで、それを毎日送る。もちろんバレないようにな」


「え、それって怖くないの?」


 愛莉が不安そうに尋ねる。


「確かに怖いな。でも、それがいいんだ。つり橋効果って言うだろ?」


 これにつり橋効果があるのかは知らんけどたぶん合ってる。


「たしかにっ」


「まあ、問題はその人の家を知ってるかなんだけど……」


 俺は愛莉に視線を送る。


「知ってるよっ」


 それは良かった。


「そして、それを一週間続けて放課後呼び出して告白」


 これは成功間違いないだろう。

 手紙の正体は誰だろうって気になってたら、まさかの超絶美少女。惚れないわけがない。


「それで成功するの?」


「そんな不安そうにするなよ。愛莉は可愛いんだ。その上、ここまでしてフラレるわけがないだろ?」


「か、可愛いってそんなぁ」


 愛莉が顔を両手で隠す。耳が赤くなってるから照れてるんだろう。


「はいはい、可愛い可愛い。それでな、成功した後も大事なんだよ」


「ふぇ?」


 間抜けな返事をするんじゃないですよ。


「いいか、もし彼氏が他の女子と喋ったり、話したり、見ていたりしたら怒るんだ」


「ええ?ちょっと理不尽じゃない?」


「確かにそうかもしれない。でも、それがいいんだ!それに、愛莉も好きな人が他の女子と楽しそうにしてるのは嫌だろう?」


 それがいいんだ、とか言っておきながら俺も何がいいのか分かってはいない。

 まあ、でもヤンデレ人気あるんだろ?たぶんいいと思う。


「それは嫌だ」


「じゃあやるんだ。怒るときは怒鳴るんじゃなくて、目の光を殺して静かに問い詰めるんだ」


「む、難しいよ」


 そうだろうな。愛莉が怒ってるとこなんて見たことないし。


「これから頑張っていけばいいさ。最後に、彼氏のことをたまに監禁してあげるといいよ」


「か、監禁?!犯罪じゃっ」


 確かに?!犯罪だ。

 えー、でも監禁しなかったらヤンデレじゃないよな?


「か、彼氏の両親から許可を貰えば大丈夫だろ」


 犯罪ではなくなるけど、愛莉が彼氏の両親と仲良くなれるまで無理だな。


「あ、それならいつでも監禁できそう」


 え?愛莉、好きな人の親ともう仲良いのか。

 もしかして、俺に相談する前から動いてたのか?外堀から埋める作戦で。

 俺必要なくない?


「ま、まあこれで俺が教えられることは終わりだ。頑張ってな、愛莉」


「うん!」


 愛莉は笑顔で頷いた。

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