ー31ー羽





視線の端。

芭蕉の葉が揺らぐ。

砂利を打つ音が、

山間に響く。


轟音を裂く。



どうにも出来ない。

先代の姿をしたほむらの黒い影。



飛び去るあるじ

八角堂にあるじの姿は

既に視界に捉えることもなく。


碓井うすい溫烱はるき

必死の叫びは聞き届けられた。



この世のモノではなく。

あの世のモノでもなく。

自然のモノでもなく。

妖怪やあやかしの類でもなく。


碓井うすい溫烱はるきは思った。


名も知らぬ『ほむらの黒い影』


先代は焼かれ姿を盗られた。


覚悟はしていただった。

今はおのれの未熟さを深くさとるのみ。


ほむらの黒い影は一体なんだ。

あれはなんなのだ。



1000年以上前からある

この寺と。

古くからある蔵書の類と、

保管してある蔵を守る為に

存在する寺の。


人をまもり、まもるために

ここにる。


ぼんやり、としか考えていなかったのか。


ほむらの黒い影を前にして

人をまもり、まもるための寺で。


あんなものから守れるのか。


無理だ・・・


寺が出来た時には

既に

八角堂にあるじ

願うしか出来なかったではないか。










どのくらい

八角堂の前に座り込んでいたものか。


碓井うすい溫烱はるきの前に

赤い鳥の羽が落ちている。



「ああ、人の子は助かるのか」


碓井うすい溫烱はるき

息をつく。






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