ー29-笑歪  





『この

 

 だから。


 決して入ってはいけないよ。

 

 あるけど、ないんだ。

  

 だから何があっても入っちゃいけない』




・・・り、ん。




異形の狭間はざま



碓井うすい溫烱はるきの前に

ほむらの黒い影となり果てた先代が

立っていた。


突然

立っていた。





つい

懐かしい

と思ってしまった。


長く教えを受けた、父とも慕った先代の姿。



判っている。

わかっていることだ。

先代はしまったのだ。

ほむらの黒い影に喰われてしまって、

姿を撮られた。



獲られた。



盗られた。





「・・・人の子は、どう、したっ」


喉の奥にナニかが詰まる。


それを押し払い、碓井うすい溫烱はるき

必死に声を絞り出す。




ほむらの黒い影は

碓井うすい溫烱はるきを見据えたまま

異形の狭間はざまの向こう、

断岩から奥を指さした。


から。

ほむらの黒い影の、

ナニかがこちらを見ている。



笑っていた。



先代の姿をしたほむらの黒い影。

       あれは先代、ではない!


先代のかおをしたほむらの黒い影。

       あれは先代、ではない!



あれは先代、ではない!

断じて違う!!




「人の子を返せ!」


碓井うすい溫烱はるき

沸き上がる感情を押し戻す。


叫ぶ。




ただ、笑っていた。


ほむらの黒い影が

先代の姿で歪んだ笑みを浮かべていた。



ほむらが揺らぐ。





 

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