ー24ー蓬生
ー彼の
これは先代の頃には
もうあった習慣だったようだ。
それまでは季節の花を
膳に添えていたようだ。
ある時
寺の者が膳を
うっかり、
菖蒲の葉の上に置いてしまった。
それを見て
彼が気に入った。
ランチョンマットみたいだな。
朝食の片付けをしながら
まだ手附かずの膳を観ていた。
彼の姿は
ここ数日見ていない。
毎日、毎食。
彼の食事は用意する。
昼飯の頃、
朝食の食器は空になっている。
夕食の頃、
やはり昼食の膳は空になる。
先代の頃は
外の八角堂に供えていたそうだ。
当代になり。
と呼ばれるようになり、
養父と食事をする頃。
彼は共に食卓についていた。
姿が見えなくとも
昔からと変わりなく
食事はしている。
膳には必ず
菖蒲の葉の絵が描かれた小皿。
菓子は必ず
それに乗っていた。
食卓に附き始め。
最初は殆ど食べられず。
口に入るものは
コワイもの。
気持ちが悪いモノ。
そう思っていた時期がある。
量も大して
食べられなかったのだ。
初めて貰った
寺に来て、
この家に来て
初めて夢中で食べた物だった。
その日から
食卓には必ず
蓬生の菓子が置かれるようになる。
「全て
必ず『一口』食え。
そうしたら
菓子は食うて良い」
食事の最後に食べる菓子が楽しみで
張り切って食べていた覚えがある。
彼に手を引かれ
畑の奥へと
蓬生を摘みに行き。
道中、
菖蒲の葉を編み打ちながら
歩いた。
菖蒲を打つ音は
彼のようには響かない。
寺が視界に入る場所で
あちこち歩き。
彼が菖蒲を打ち。
ハルも、打つ。
夕暮れまで
遊んでもらって。
彼の打つ音は
山にも響く。
空気を
斬る。
霧を
斬る。
見えないものを
斬る・・・
彼の音。
姿は
とてもとてもかっこいい。
ハルは
彼のように
なりたかった。
彼に手を引かれなくとも
歩き回れるようになった頃。
ハルが
菖蒲を打つ音は
小気味よく響き。
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