「知ってはイケナイ。」

ー１－ 片

灯りはない。

外の光は

どこか

割れた隙間から

入ることもあるかと。

古い。

それだけは確かだ。

外から封じ付けられていた。

玄関だった場所も。

外は見えない。

外からも

室内は見えない。

元は人が住んでいた名残。

もし間違って

この場所に迷い込んだ人がいるのなら。

「廃屋」

そう思うに違いない。

朽ちた大きな箱。

そう見える。

ただ

ここに人が迷いこむことは

考えにくい。

人の手が入ることなく

自然のままの樹木に取り込まれたー

飲み込まれたような

森の一部に成り果てた廃屋。

山の動物が

雨風を凌ぐ場所を探す時。

山小屋に入り込んで、という話はよく聞く。

森に飲まれた廃屋。

否、

廃屋の痕跡とも言えるソレ。

動物ですら近づくことはなかった。

半ば一体化しつつある森の樹木ですら

周囲と形状を異（い）とした。

同種の木も幾重にも生い茂る森で

そこだけ枝の様（さま）が異（こと）なっているのだ。

鳥の声も

ない。

風も

ない。

空気が

淀（よど）む。

うねる枝は太い。

大きく広がり廃屋を覆いつくす。

森が

握りつぶそうとしていた。

人どころか

動物すら寄り付かぬ廃屋。

汚れ

朽ちた

廃墟の風情の

それ。

継ぎ足し

立て

かけた

戸板。

動かした気配を感じる。

戸板の奥。

廃屋の、やや中。

比較的新しい紙の一部が見えた。