-2- 片




唐突に。


一冊だけ絵本があった。




何故か廊下に落ちていた。



し絵には

テーブルいっぱいに

お菓子やケーキ。

紅茶を入れる

楽しそうな人と動物。




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その時は

それが

お菓子だとも

ケーキだとも判らなかったのだ。

初めてみた。

紅茶のポットも

初めてみた。


ただ楽しそうな。

見ていると

嬉しくなる絵。


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心を掴まれてた。




大きな時計を持ったウサギ。

追いかけた女の子は

穴に落ちて。



物語の意味はわからない。

その時の

ボクは字が読めなかった。


字が読めない事を知らなかった。


文字が読めたら

きっと物語に夢中になっただろう。





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のちに

穏やかな日々を得た頃に

ボクは

この絵本を買ってもらった。


絵本を前にして

物語を読んで貰った。


物語を

知ることが出来た。


何度も何度も。

繰り返し。

読んでもらった。


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どのページもめくるだび

楽しい世界が広がっていた。








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その家に本は殆ど無かったと思う。

子供の娯楽は当然ない。

数冊あった本も

旧漢字と旧書体だけだ。

摩りきれた模様に見えていた。





カビくさい。




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大人は

時々やってくる。


子供は黙る。


大人がいれば

隠れ

無言で過ごす。


それでも まだマシだった。

大人はには滅多に来ない。


大人。


大きな影。





声を出すな。


恐ろしい目に合う。



大人の背後には

大きな影が

いつも一緒だった。




「  の言う トを け」


目玉は

時々そう言った。



大きな影には

目玉が付いていた。



コワイことが起こる時も

目玉は

じっ・・・と、


こちらを見ていた。



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痛い

いたい。

動けない。


いた い。


大人がいなくなり。




目玉だけ、

ぽつりと

残る時がある。


影と

その目玉。



大人は痛い。


目玉は 痛くない。


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