1-10

 二階の廊下。

 植木鉢の前にしゃがみ込んだ警備兵が、背後の隊員に向かってジェスチャーを送った。

 爆弾を発見した、という合図である。

 遠隔操作で爆破する仕組みのものだった。

 警備兵はナイフを取り出し、コードの切断を試みる。

 ゆっくりと刃先を近づけていく。

 爆薬に通電すればその時点で即死だ。

 刃を上向きに当てる。

 コードがピンと張り詰めた。

 徐々に力を込める。

 ぷつ。

 切断した。

 成功だ。

 警備兵は安堵したように息を吐く。

 吐き切った息を吸い込み、警備兵はその場に倒れた。

 背後に立っていた隊員も続けざまに倒れる。

 起爆装置から噴射されたのは、即効性のある高濃度の麻酔ガス。

 解除されることを想定した二段構えである。


 オフィスの一室で、天井裏に上半身を突っ込んだまま爆弾の設置を進めるシグレ。

 本来ならば建造物の爆破は暗殺手段としては悪手である。

 まず、対象を殺したという確証を得るのが難しくなる。

 それに、シグレ自身が先に脱出しなければならないため、相手にも同様の猶予を与えることになってしまう。

 起爆する時点で半分以上を解除されていればビルの破壊が不発に終わる可能性も高い。

 それでもシグレには勝算があった。

「あいつは頭悪そうだからな。焦って自分から動くだろ」

 床に降りたシグレは、口に咥えた拳銃を持ち直してそう言った。

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