1-4

 二日後。

 午前十時。

 中部エリア北陸区、中心街。

「警戒を怠るなよ。敵地じゃ常に捕捉されてると思え」

 前を歩いていた青年がムラクモを振り向いて言った。

 名前はカナタ。

 東海区に身を置く契約者の一人である。

「素人じゃないとは聞いてるが、一応もっかい確認しとく。こっち側に侵入した時点で連中には十中八九バレてる。今は恐らく指導者のシエンが索敵を担当してるはずだ。とはいえ目立つ行動さえ無ければ人物の特定までには時間がかかる。大まかな位置情報を頼りに部下が寄ってくるはずだから、できるなら目視で先に敵の位置を確認したいわけ」

 後ろ髪の三つ編みを揺らしながらカナタが説明する。

「わかっている」

 ムラクモは淡々と応えた。


 コードにはその固有能力の他に、共通して実行可能な機能が存在する。

 その中で、肉体強化や超再生、テレパシーと並んでよく使用されるのが探知である。

 探知とはすなわち、契約者を中心としたエリア内における異常の検知だ。

 検知すべき異常には災害や犯罪の発生なども含まれるが、その中で最も警戒されるのが契約者の侵入。

 つまり、敵地に踏み入った二人は今、いつ迎撃を受けてもおかしくない状況にあった。

 とはいえ身を潜めるような動きをすれば、その不審な行動自体が探知の対象になりかねない。

 無論、敵のテリトリーでコードを使えばその時点で特定されてしまうため、こちらから逆に探知を仕掛けるようなことも困難である。


 二人は薄暗い裏路地へと入っていく。

 大通りのほうが人混みに紛れることはできるが、それは敵にとっても同じこと。

 むしろ索敵が使えない分、奇襲を受けやすいこちらのほうが不利だ。

 背後から刺されてそれで終わりということもあり得る。

 ましてや、一般市民に被害が出ることは双方とも望んではいない。

 人気のない場所に立った時点で、敵は既にこちらを見つけているだろう。

 もとよりこのまま敵をやり過ごすつもりなど二人には無かった。

 ポケットに手を入れたまま悠々と進むカナタ。

 無言でその後を行くムラクモ。

 敵はどこから来る。

 上からの奇襲か、前後の挟み撃ちか。

 いずれにせよ、始まればわかることだ。

「来たな」

 カナタが笑みを浮かべた。

 その直後。

 周囲一帯の地面が白く変色した。

 霜である。

 小さな霜柱は急速に成長し、瞬く間に水晶ほどの大きさになり――。

 それが足首の高さまで達する前に、二人は氷を踏み砕いて駆け出した。

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