山田 零士 1年次夏期集中訓練 移動日(6)

 三上主任は、霜月先輩の方を見ると

「冬弥君。久し振りだね」

 と声を掛けると

「ご無沙汰しています」

 と言って頭を下げた。


 霜月先輩は、三上主任と知り合いなんだなと思って見ていると、こちらを三上主任はこちらを向き

「ふむ。珍しいな」

 と言って顔を近づけてくる。


 思わず逃げようとすると、両手で顔を抑えられた。

「その目。魔眼だな」

 と言うと手を離し離れた。


 あまりに突然だったので驚いていると

「その目に宿った魔力は、なかなかの強さだ。

 しっかりと訓練を積みなさい」

 と言われ、肩を叩かれた。


 三上主任は

、後は頼んだぞ」

 と言ったが、横に居る女性は反応しない。


 三上主任はため息をついた。

 三上主任が女性の肩を叩くとハッとした様だ。

「まだ馴れていないのは分かっているが慣れろ」

 と言うと

「す、すみません」

 と言って頭を下げた。


「まあいい。後を頼んだぞ

 と言い残して、外に出て行った。


 俺が「えっ?」と思っていると山奈さんは、若林教育官に向かって

「今回、こちらの施設を使う訓練生は、この4人ですか?」

 と言うと

「この4人です」

 と若林教育官が答える。


 山奈さんは

「ではこちらに」

 と言うとカウンターに立った。


 俺達がカウンターの前に立つと山奈さんが

「では、学生証を出して下さい」

 と言うと、霜月先輩が学生証を出した。


 山奈さんは、学生証を受け取ると端末に読み込ませると何か操作した。

「はい。学生証を返すわ」

 と言って、霜月先輩に学生証を返却すると

「霜月君の部屋は、5階の511号室です。

 次の人、学生証を出して」

 と言うので、俺が学生証を出す。


 山奈さんは、同じ処理をして

「山田君は、5階の512号室です」

 と言って、学生証を返してもらった。


 次に学生証を出したのは明日香だった。

 山奈さんは、明日香にも同じ処理して

「伊吹さんは、2階の211号室です」

 と言って、学生証を返してもらった。


 後は章だけだ。

 その章は、学生証を探していた。

 俺達は黙ってその様子を眺めていた。


 しばらくすると

「あったー」

 と章が叫んだ。


 学生証は、野外訓練用背嚢バックパックのサイドポケットの奥から出てきた。

「無くさない様にここに入れていたのを忘れてた」

 と言う。


 明日香は

「まあ、章君なら仕方ないか」

 と呆れている。


 俺は呆れて物が言えない。


「まあ、無くさない様に片付けたら、片付けた事自体忘れる事もあるよな」

 と霜月先輩がフォローを入れてくれた。


 章は学生証を山奈さんに渡すと、学生証を探すために広げた野外訓練用背嚢バックパックの中身を片付け始めた。


 章が片付け終わると、山奈さんが学生証を返し

「見石君は、5階の514号室です」

 と言って手渡した後、俺達を見渡して

「この宿舎での注意事項です。

 各人の部屋の鍵は、学生証を読み込ませる事で開きます。

 なので、学生証は常時携帯して下さい。

 万が一インロックした場合、私か教育官に申し出てください。

 私は基本、この裏の待機室に居ます。


 2階と3階は女性専用です。

 4階と5階は男性専用です。

 貴方達以外にも滞在していますので、無闇に立ち入らない様にして下さい。


 1階には、食堂、洗濯室ランドリー・ルーム、大浴場が設置されています。

 各部屋にもお風呂が設置されていますが、大浴場を使用して下さい。


 ここまでで、何か質問はありますか?」

 と言われたが、誰も質問をしなかった。


「質問も無い様なので、荷物を各人の部屋に置いたら6階の601号室に集合です」

 と言われたので、野外訓練用背嚢バックパックを持ってエレベーター横の階段を登る。

 5階の自分に割り当てられた部屋の扉に俺の名前が書かれた紙が貼ってあった。

 当然、霜月先輩と章の部屋にも貼ってある。

 取り敢えず、部屋を間違える心配はなくて良かった。

 扉のカードリーダーに学生証をかざして扉を開いて中に入る。


 部屋の広さは訓練校の個室と同じ位だが、浴室・洗面・トイレが一緒になった3点ユニットバスが設置されているので、その分居住スペースは狭い。

 机とベッドが窓際に設置されている。


 野外訓練用背嚢バックパックを机の上に置くと、メモ用紙と筆記用具を持って部屋を出る。


 部屋の外には霜月先輩と章が待っていた。

「お待たせしました」

 と声を掛けると、霜月先輩が

「じゃあ、行こう」

 と声をあげ、先頭に立って歩き出す。

 エレベーター横の階段を使って上がって行く。

 6階に着くと、丁度エレベーターの扉も開き、中から明日香が出てきた。


 明日香も合流して、霜月先輩を先頭に601号室の扉の前に並ぶ。

 霜月先輩が扉をノックして

「失礼します」

 と一声掛けて扉を開いて中に入る。

 章、俺、明日香と続いて入室した。


「ようやく来たか」

 と声を掛けられた。


 声の方を向くと、若林教育官と土森さんと華山さんの3人が居た。


「お久しぶりです」

 と霜月先輩が言うと

「霜月の坊主。

 久しぶりだな」

 と土森さんが返し

「久しぶりだね」

 と華山さんが返した。


 俺と明日香は黙礼をする。

 章は

「あれ、土森師匠と華山師匠が居る。

 って事は、石割師匠も居るんですか?」

 と言う。


「いや、あいつは来てない」

 と土森さんが苦笑いをしながら答え

「魔女の一撃を貰ったからね」

 と華山さんが続けた。


 章は驚いた表情で

「師匠は、大丈夫なんですか?」

 と聞くと

「夏期集中訓練が終わる頃には、治っているだろう」

 と土森さんが答えた。

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