山田 零士 1年次夏期集中訓練 移動日(4)

 食堂に戻り訓練を再開する。

 訓練内容は魔力弾の生成だ。


 俺と明日香は、同じ魔力量の魔力弾の生成を繰り返す。

 章は6月の総合試験後から2週間で、10回中4回は生成が出来る様になった。


 章を指導しているは、馬鹿共の引き渡しの際にロープを持っていたガタイの良い教育官こと、金森教育官は

「魔力弾の訓練を開始して2週間で、成功率4割なら上出来だ」

 と章を褒めていた。


「本当にこの子達は優秀ですね。

 普通、訓練開始から1ヶ月位で成功率2割ですからね」

 と馬鹿共に一喝した女性教育官の若林教育官が応じ

「厳島君や霧咲君が入れ込むのも分かる」

 と金崎教育官が答えた。


 今、俺達を教導しているのは、この3人だ。

 厳島教育官と霧咲教育官は何処に行ったかというと、今船内を巡回している。

 船内巡回の時間になったので、別の教育官が指導してくれているのだ。

 そして、待機中の教育官30名弱に見守れながら訓練を行っている。

 一応、口出しはしてこないが、切っ掛けがあれば関与してきそうだな。

 そんな感じで午前中が過ぎお昼になる。


 お昼を食べた後、ジュースを買いに行った章が戻ってこない。

 俺や明日香もトイレや休憩に為に食堂から何度か出入りしているが、こんなに長く時間が掛かる事は無かった。

 何かあったのかも知れないと思いつつ待つ。


 シュースを買いに出て、30分後に章は戻ってきた。

「章。

 遅かったけど、何かあったのか?」

 と聞くと

「ああ、自動販売機の所で、西尾にしお仏性ぶっしょうに会ってな。

 少し話し込んでいたんだ」

 と返ってきた。


「そうか。

 まあ何事も無くて良かった」

 と言うと

「なんで心配してんだ?」

 と言う。


「お前なー。

 俺と明日香がトラブルに巻き込まれただろうが。


 お前も色々な意味で目立っているんだぞ。

 トラブルに巻き込まれたかもと思っても仕方ないだろうが」

 と言うと


「考えすぎだって。

 優等生って事で多少目立っているだけだろ。

 大丈夫だって」

 と言って笑っている。


 章は、自分の噂を知らない様だ。

 突発的に漫才を始めるお笑いトリオ。

 俺と明日香のオマケ。

 黙っていると2枚目、喋ると3枚目。

 勉強出来そうに無いのに優等生になった。

 等々、俺と明日香以上に噂になっている。


 あと、明日香から聞いた話しだと、章を優良物件だと言って狙っている女子グループが居るらしい。

 章にも話してあるが全く信じていない。

 俺も初めて聞いた時、冗談かと思った。

 だが、自身でもそれらしい噂を聞いた以上油断しない方が良い。

 気をつける様に言い含めてある。

 何処まで本気にしているか怪しいから困ったものだ。


 13時を過ぎたので訓練を再開しようとすると、若林教育官に呼ばれた。

 若林教育官の元に行くと、机の上には深めの盆の上に水の入った目盛りのあるコップが置いてあった。


「これから、貴方達の属性判定を行います」

 と宣言された。


 俺達が驚いていると

「さあ、誰から判定する?」

 と聞かれると、章が手を上げた。


「じゃあ、見石君から始めましょう。

 まず、そこの椅子に座って」

 と言われ、素直に椅子に座る。


 章の隣に別の女性教育官が座る。

「採血するから、利き手と反対側の手を出して」

 と言われ

「採血?」

 と驚きながらも左手を出す。


 その女性教育官は、章の人差し指を消毒しながら

「属性判定には、被験者の血液が必要なのよ。

 ちょっとチックとするわよ」

 と言うと針を刺した。


 指先から、血が小さな玉状になる。

 お盆の中のコップを取り出し、章の前に置く。

「その血を1滴コップに入れて」

 と言われ、章は指先を水面に近づけると血が滴り落ちた。


「じゃあ、左手を出して」

 と言われ手を引っ込めると章の左手を取り、指先の血を洗浄綿でキレイにすると手をかざす。

 すると、血が出なくなった。

「止血したから大丈夫よ」

 言われ、章は指を不思議そうに見ている。


 その女性教育官は、コップをお盆の真ん中に置く。

「ありがとう」

 と若林教育官が言うと、無言で後ろに下がった。

 若林教育官は、コップの水面に小さな正方形の紙を1枚浮かべた。


「見石君。

 お盆のコップを置いたまま、両手をコップを持つ様に添えて」

 と言われ、章はコップに手を添えた。


「コップに魔力を注いて」

 と言われ、章がコップに魔力を注ぐ。


 5秒、10秒、15秒と時間が進むが何も起こらない。

 どういう事だと思っていると、唐突に変化が現れた。

 水が盛り上がり零れたのだが、まるでゆるいゼリー状にゆっくりと流れた。

 驚いた章が思わず手を離すと元の水に戻った。


 それを見ていた教育官達が一斉にコップを覗き込んだ。

 金崎教育官、金森教育官、雪乃教育官が紙に何かを書き込んだ。

 それを一斉に提示する。

 それを見ながら、若林教育官が評価を着けている。


「これは一体?」

 と問うと、金崎教育官が

「これは水鏡検査法と言う能力アビリティの属性判定方法だ。

 被験者の血を混ぜた水に、被験者が魔力を注ぐ事で起こる変化を見て属性を判断する方法だ。

 残念ながら科学的に能力アビリティの属性判定方法は確立していない。

 だから、伝統的な判定方法に頼っているのだ」

 と言う。

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