山田 零士 1年次夏期集中訓練 移動日(2)

 馬鹿共から

「馬鹿が余所見をするからだ」

「1年ごときが、2年に勝てる訳ないだろう」

 と言う声が聞こえたが、俺に殴り掛かってきた馬鹿が嗚咽を漏らしながら後退し、腹を押さえて苦しみだした。


 俺は拳を打ち込んだ姿勢のまま

「目をつむっていても躱せる程遅い拳が当たる訳ないでしょ。

 もっとも、当たったとしてもダメージは有りませんがね」

 と朗らかに言う。


「なっ!」

「ふざけるな」

 と2人程叫んだ直後に、腹を押さえている馬鹿との間合いを一気に縮め、再び下から突き上げる様打ち込む。

 馬鹿は、両腕を交差させる様にして自分の身体を抱く様にして腹を押さえていたが、その腕を吹き飛ばして鳩尾に拳が突き刺さり、まるで漫画やアニメの1シーンの様に吹き飛んだ。

 吹き飛ばされた馬鹿は、教育官達の前まで飛び床で伸びている。


 馬鹿共は、唖然とした表情で固まっている。

 普通に殴ったら、こうはならない。

 当然技能スキルを使っている。

 身体強化に硬化に衝撃インパクトだ。

 衝撃インパクトは、つい最近使える様になった技能スキルだ。

 そして、馬鹿共はこちらが能力アビリティ技能スキルを使ってくると思っていなかっただんだろう。

 だから、馬鹿面を晒している。


「さて、後が詰まっているから、さっさと終わらせるか」

 とと言うと、馬鹿リーダーが

「ふざけんな。こんな事が許されるとおもっているのか」

 と叫んだ。


 俺は、そいつを無視して馬鹿リーダーの隣に居る奴の横に移動して、ミドルキックを叩き込む。

 棒立ちで蹴りを受けた馬鹿は、ワンバンウドして教育官達の前で倒れている馬鹿の上に落ちた。


 俺は、馬鹿リーダーにニィと笑いかけ

「2人目」

 と言うと、顔を引きつらせながら後ろに1歩下がった。


 今度は、馬鹿リーダーの後ろの奴の前に移動すると、左足の後ろ回し蹴りを叩き込み、先の2人と同じ所に飛ばす。

 こいつは、吹き飛ばされている最中に足が床に当たった為、盛大に後頭部から床にぶつかり、床で跳ねて1回転して床に叩きつけられた。


「これで3人。

 どうしたんですか?

 1年ごときに良い様にあしらわれていますよ」

 と言うと、ようやく金縛りが溶けた様に

「お前ら、こいつをぶっ殺せ」

 と馬鹿リーダーが叫ぶ。


 それを聞いた2人と馬鹿リーダーの3人がかりで襲いかかってくるが、俺は軽くあしらいながら強烈な1撃を入れて、1人また1人と教育官達の前に吹き飛ばす。


 こうして、馬鹿リーダーだけが残った。

「さて、最後はお前だ」

 と言うと、明らかに狼狽した様子で

「待て、俺が悪かった。この件は無かった事にしよう。

 お前だって、その方が都合が良いだろう」

 と言い始めた。


「どういうつもりだ」

 と問うと

「お前だって、訓練生同士の喧嘩に能力アビリティを使ったんだ。

 教育官にばれたら、お前は強制収容所行きだぞ。

 だから、これで手打ちにしよう」

 と言い始めた。


「今更何を言ってるんだ。

 後ろを見ろよ」

 と言うと、馬鹿リーダーは後ろを見て

「げ、金崎かなざき

 と叫んだ。


 伸びている馬鹿5人の向こう側。

 展望室の入口には、6人の教育官が立っている。

 俺が2人目を倒した辺りから、応援として駆けつけて増えた。


 馬鹿リーダーの背後に周り

「最初から見られているから言い訳無用だ」

 と言うと、馬鹿リーダーの背中に衝撃インパクトを叩き込み教育官達の前に吹き飛ばす。

 馬鹿リーダーは、教育官達の前の床で転げ回っている。


 キルサインをした教育官が、馬鹿共の横をすり抜け俺の前に来ると

「山田、良くやった。

 噂通りの実力で安心したぞ」

 と言われたので

「いえ、まだまだ未熟です。

 霜月先輩なら10秒掛からず制圧出来たはずです。

 それを考えれば、時間を掛けすぎました」

 と答える。


「そうか。ならもっと精進が必要だな」

 と言って笑った後

「悪いがお前達も一緒に来てくれ。

 事情は最初から見ていたが、調書は書かないといけないからな」

 と言われたので

「分かりました。同行します」

 と答えると

「調書の後は、教育官の待機場所の空いた席で過ごすと良い」

 と言われたので

「もう1人居るのですが」

 と言った所で章が展望室に戻ってきた。

 その章は、周囲をキョロキョロと見渡している。


 俺の視線に気づいた教育官が入口の方を見て

「あれがもう1人か?」

 と言うので

「そうです」

 と答えると

「なら、一緒に連れて行けば良い」

 と言われた。


「章。こっちだ」

 と章を呼ぶ。


 走って俺の下に来た章は

「どうした。何があった?」

 と聞く。


「悪いが、それは後で話す。

 まずは移動するから、荷物を持って着いてきてくれ」

 と言うと

「良くわからないが分かった」

 と言って自分の荷物を取りに行った。


 俺の荷物は、明日香が持って来てくれた。

 明日香から荷物を受け取り章を待つ。

 章が揃った所で教育官に付いて行く。


 馬鹿共は、俺達が荷物を取りに行っている間に他の教育官に連行されて行った。

 教育官の待機所は閉鎖中の食堂だった。

 馬鹿共は、隅に固めて集められている。

 良く見ると手枷を掛けられている。


 馬鹿共の方を見ていると

「お前らどうした?」

 と声を掛けられた。


 声の主は、厳島教育官だった。

「徳永が馬鹿をして、コイツラに迷惑を掛けただけだ。

 一応調書を取る関係で来てもらった」

 と先導した教育官が答えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る