山田 零士 1年次 6月総合試験 反省会(4)

 驚いている俺達を他所に、厳島教育官は言葉を続ける。

「お前達には大変不本意だろうが、教育隊対教導隊という育成競争が始まったのだが、現状教導隊の方が訓練成果が良い。


 だからと言って外部の力を借りるのはと思うだろうが、今の俺達には知識も技術も足りない事がはっきりと分かった。

 その差が成績という形ではっきりと示されたからには、俺達にも変革が必要だ。

 だから、西脇さん達に協力を求めた。


 当然、反対する教育官も多くいたが、俺達の我儘でお前達を犠牲にする事は出来ないから、説得して西脇さん達に協力依頼する事を認めさせた。


 そういう訳で、お前達には迷惑を掛ける。

 スマン」

 と言って頭を下げた。


 章と明日香が動揺している。

 まあ、俺も多少動揺しているが、何となく察していたので2人程では無かった。


「厳島教育官。

 師匠達にもその話しを知っているんですよね」

 と聞くと

「ああ、勿論だ。

 お前達への訓練を通して俺達も学ぶ事で、ステップアップするつもりだ」

 と言った。


 章が

「そうすると、優達の方が不利にならねえか?」

 と珍しく真っ当な意見を言った。

 俺は思わず章の顔を見た。


「な、なんなんよ。

 皆揃って、そんな顔で俺を見るのかよ」

 と章が言うので、周りを見ると明日香も厳島教育官も驚愕の表情で章を見ていた。


「いや、見石からそんな意見が出るなんて思っていなくてな」

 と厳島教育官が言うと

「ひでーな。俺だって少しは考えているんだぞ」

 と章が返す。


「それは分かっているが、いつも何処か少しズレた意見しか言わないからだろ。

 だから、真っ当な意見が出て驚いているんだ」

 と俺が言うと、かなり驚いた様子で

「俺って、相当馬鹿と思われてる?」

 と返してきた。


「いや、あの。馬鹿というより、少し感性のズレた人だと思ってた」

 と明日香が返す。

 がっくりと首を落とし膝を抱え、床に「の」の時を書き始めた。

 なにかブツブツと言っているが、下手に慰めると更にイジケルから放置する。


「まあ、章の事は放っておいて、実際の所はどうなんですか?」

 と問うと、厳島教育官は

「それについては、何も問題ない。

 あちらは、最初から東海支局教導隊と思金おもいかねがバックアップに着いている。

 それに戦術課の隊員達が補佐をしている。

 だから、最新の訓練理論と技術を使った訓練を行っている様だ」

 と言われた。


「最新の理論?」

 と問い返すと

「ああ、それはな。

 夏期集中訓練のカリキュラムを提出して貰ったのだが、その内容がかなり高度な内容だった事と、霧崎がお前達のカリキュラムを組むのに四苦八苦している時に、神城教導官から参考資料として幾つかの訓練カリキュラムと指南書を手渡されたんだ。

 その内容が教育課には回ってきていない内容だった。


 一部非公開の情報が入っているならともかく、大半が非公開の情報だった。

 そして気軽に手渡して来た事からも、東海支局教導隊では当たり前の情報だったのだろう。

 その情報の中に思金おもいかねの論文の引用が多数含まれていた事からも、彼女達の訓練には思金おもいかねの先進的な訓練が取り入れられていると思う。


 だから、彼女達が不利と言う事はない。

 むしろ、最初から向こうの方が有利だ」

 と言われた。


 明日香が

思金おもいかねってなんですか?」

 と問う。


思金おもいかねとは、対魔庁の研究組織だ。

 戦術課の関連組織で、様々な研究・開発を行っている。


 そうだな。

 能力アビリティの解明、動物の抗魔物化薬の発明、新戦術・新戦略・新技能スキル、戦術課の兵装等の開発も行っている。


 そこがバックアップしているんだ。

 俺達も使える手段は使おうって気になるも分かるよな」

 と言われた。


「まあ、確かに」

 と俺が答える。


「そういう訳で、土曜日は西脇さん達の訓練が行われる。

 第2体育館に朝9時に集合だ」


「了解」

「りょーかい」

「分かりました」

 と返す。


「さて反省会は終わりなんだが、今日の訓練は行わない。寮に戻れ」

 と言われた。


「どうしてですか?」

 と明日香が尋ねると

「明日、成績発表が行われる。

 授業は無いから午後から部屋替えになる。

 土曜日に訓練を行う以上、明日中に引っ越しを終わらせる必要がある。

 だから、今日の内に引っ越しの準備を終え明日は素早く移動しろ。


 特に掃除は意外と時間が掛かるものだ。

 だから、キチンとやれよ。

 特に見石」

 と言われ、章は

「え! 俺だけ?」

 と驚きを表わす。


「お前達3人の中では、見石が一番散らかしていそうで心配だからな」

 と言われ

「お前は片付けが下手だからな。掃除頑張れよ」

 俺が言うと、がっくりと肩を落とした。


 寮に戻り部屋替えの準備を始める。

 クローゼットを片付けて見ると、想定以上に物が出てきた。

 改めて必要な物と不要な物に仕分け、不要な物をゴミ捨て場に持って行く。


 そのついでに購買に行って、雑巾とゴミ袋を買って部屋に戻る。

 大体片付けと大雑把な掃除が終わった頃に、相部屋の馬鹿が返ってきやがった。

 俺の方を一瞥すると

「俺の分も片付けておけ」

 とほざくから

「断る」

 と即答すると

「なんだと、貴様」

 と怒りを露わにするので

「Cクラスで燻っている奴が、Aクラス上位者に命令するな。

 分不相応だろうが、むしろ貴様が俺の手伝いをするべきだ」

 と傲慢に言い放つと、顔を真赤にして手を震わせながら

「ほざいてろ。

 直ぐにお前なんか追い抜いて、足元に平伏させてやる」

 と怒鳴ると部屋から出ていった。


 まあ、アイツとの付き合いも明日までだ。

 アイツがどれだけ頑張ろうが、俺達を超える事も並ぶ事も無いだろう。

 俺でも分かる程、アイツはこの3ヶ月で大した成長をしていない。

 精々、中の下だ。

 それで、傲慢な態度を取れるのが不思議なぐらいだ。

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