山田 零士 1年次 6月総合試験 反省会(3)

「喜ぶのは良いが、まだ話の途中だ」

 と言われ口を噤む。


 厳島教育官は、俺達を見渡してから

「お前達は、研修生訓練を受ける資格を得た訳だが。


 お前達は受けるな」

 と言う。


 ん?

 どういう事だ?

 と首を捻っていると

「どうしてだよ。

 研修生訓練を受けて、更に強くなろうと思っているのに」

 と章が両手を机に着けて立ち上がって吠える。


「そう吠えるな。

 これから説明してやる。

 だから座れ」

 と言われ、章は渋々と言った感じで座った。


「まず、お前達が強くなりたいと思っている事は十分理解している。

 だからこそ、研修生訓練を受けさせない。

 何故なら、お前達にとって得られるものが無いからだ」


 章は勢いのまま、声を荒げながら

「研修生訓練は、通常の訓練よりかなり厳しく大幅なレベルアップが出来るって聞いていたのに。

 何も得られるものが無いって、どういう事ですか?」

 と言い切る。


「普通の訓練生なら、お前の言う通りだ」

 と返された。


「普通の訓練生?」

 と章が問い返すと


 厳島教育官は

「お前達的には、天才とは神城を含めた5人だと思っている様だが、一般的に見るとお前達も十分天才なんだよ」

 呆れを含んだ声色で言った。


 章は、間抜けな声を出し

「へぇ? 俺達が天才? 冗談……ですよね」

 尻すぼみなりながら問う。


 厳島教育官は、真面目な顔になり

「冗談ではない。

 お前は、自分の能力訓練がどの程度進んでいるのか分かっているのか?」

 淡々と問いかける。


 章は

「え? 3~4ヶ月位進んでいるのかな?

 それだと盛り過ぎか。

 精々2ヶ月位だと思います」

 と答えると、厳島教育官は盛大なため息をを着いた。


 厳島教育官は

「お前なー。認識不足が酷いな」

 と言って天井を見上げた。


 顔を俺達に向けると

「お前達3人の進捗度は、1学年3学期終了相当だ」

 と言われた。


 章は間抜けな顔を晒し、明日香も驚きを露わにしている。

 そういう俺も驚いていた。

 精々、2学期の後半位だろうと思っていたからだ。


「驚いている所悪いが、訓練大綱に則って判断するとそうなる。

 たった3ヶ月で1年分の訓練を完了させた奴らを天才と呼ばずになんと呼ぶ」

 と呆れた感じで言われた。


 流石の章も反論出来ず、口をパクパクさせている。


「そういう訳でだ。

 通常の習得速度の訓練生を対象にした研修生訓練は、お前達には適さない。


 それにお前達を参加させる事で問題も生じる」


「問題?」


「そうだ。

 お前達の進捗は素晴らしく早い。

 だからと言って、他の訓練生がお前達に合わせる事は出来ん。

 だから、お前達が他の訓練生に合わせる必要がある。

 そうなると、お前達の訓練にはならない。


 それにお前達の存在は、上級生達に取って目の上のたんこぶとなるだろう。

 余計な軋轢あつれきを生む原因となりかねない。


 だから参加させない事になった」

 と言ってため息を着いた。


「じゃあ、俺達はどうしたら良いんだ?」

 と章が、厳島教育官に食いつく。


「そう慌てるな。対策は考えてある」

 と犬でも宥める様に言う。


「対策!教えてくれ」

 章は、我感ぜずとばかりに食いつく。


「慌てるな。

 お前達の事は西脇さんに協力依頼をした。

 西脇さんならお前達の事も良く理解しているだろうからな」

 厳島教育官は、困った顔をしながら告げた。


『西脇さん?』

 と言って俺達は首を傾げる。


「お前らの良く知っている人物だぞ」

 と言われ、章が

「零士、西脇さんって知っているか?」

 と聞いてくる。


「いや知らない」

 と言って、明日香を見ると

「私も知らない」

 と即答した。


「お前ら何を言っている?

 お前達が良く行くカフェ月光のマスターだぞ」

 と言われ

「マスターの名前か。初めて知った」

「俺も俺も」

「マスターって呼んでいたから知りませんでした」

 と返すと

「お前らなー」

 と呆れられてしまった。


「まあいい。

 これからは、西脇さん達と連携して行く事になった。

 毎週土曜日に来てくれる事になった」

 と言われた。


「分かりました」

「了解」

 と俺と章が答える。

 明日香は

「それは構いませんが……」

 と言い淀む。


「俺達教育官が、お前達の訓練を外部に投げた事が不満か?」

 と聞かれたので

「いえ、不満と言うより疑問です」

 と答えると

「どんな疑問だ?」

 と聞かれたので、明日香はちょっと尻込みしながら

「教育官として、この状況をどう思っているのかなって」

 と答えた。


「そうだな。

 正直、不甲斐ないと言う思いと申し訳ないって思いだな」

 と言われ驚いた。


 明日香が

「えーと、どういう事ですか?」

 と尋ねると

「簡単に経緯を話すと、神城教導官は訓練時間外にあの4人を鍛え始めた。

 この行為自体には何の問題は無い。

 あくまでも自主訓練の一環だからだ。

 問題はその結果が劇的だった事だ。


 神城教導官の指導の元、メキメキと頭角を表わす4人に対して従来のカリキュラムでは対応出来無くなった。

 それに続く様にお前達3人も頭角を表わした。


 このままでは、優秀な者達を指導出来ない事態に陥る事は容易に想像出来た。

 そこで校長が一石を投じた。

 それがカリキュラムを無視した訓練を課す事を容認し、神城教導官にあの4人の教導を依頼し、お前達3人は教育官の総力を上げて鍛えると言うものだ。


 1年だけ特別扱いをする訳には行かないから、2年と3年にも特別クラスを作り鍛える事となったが、まあこちらはほとんどオマケだ。


 2・3年でお前達に匹敵する才能のある奴は、霜月だけだったからな」

 と言った。


 ちょっと、ぶっちゃけ過ぎではないか?

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