山田 零士 1年次 6月総合試験 反省会(2)

「ただ間合いを詰めるだけの行為にも関わらず、高度な事をしていたんですね」

 と明日香が呟く。


 厳島教育官は厳しい顔をして

「その通りだ。

 訓練生レベルでは無い。

 既に隊員相手でも十分通用するレベルに達している」

 重い声で告げた。


 厳島教育官の言い方にちょっと違和感を感じて考え込んでいると

「じゃあ、攻撃はどうだったんですか?」

 章が問う。


「ああ、4人共、打撃が当たる瞬間に強打バッシュ衝撃インパクトを正確に使ってきた。

 これ以上無いって言う程完璧なタイミングだった。

 あれは、まぐれで出来たものでは無い。

 何度も繰り返し使って体で覚えたものだろう」

 と厳しい言葉で返す。


 章は相当悔しそうな顔をしている。

 章は強打バッシュをなんとなくで使えるので、毎回同じタイミング同じ威力で撃つ事が出来ない。

 だからこそ、この言葉の意味を良く理解出来た様だ。


 章は

「あと、土田さんの連続蹴りは?」

 と絞り出す様な声で言う。


「あれは、悪質な初見殺しだな」

 と言って、後頭部を右手で掻き出した。


「悪質な初見殺し?」

 と明日香が言うと


「ハイキックからの空中での後ろ回し蹴り。

 更に交差蹴りでの首刈り。

 交差した足で首投げまで繋げる大技だ。


 悪質な事に全ての技が首狙いだ。

 どれか一つでもまともに入っていれば即終了。

 首が折れる」

 と断言する。

 章が絶句している。


 厳島教育官は

「しかも、空中姿勢制御に魔力の噴出を利用していた。

 交差蹴りは、魔力の噴出で高速化させつつ硬化を使って打撃力を上げていた。

 俺は躱したが、アレを受け止めると両足から強打バッシュが撃ち込まれていただろう」

 と言って、深い溜め息を着いた。


「こわ!殺意高!」

 と章が驚いている。


 既に隊員レベルを殺せるレベルの実力があると言う事か。

 と言うか、そういうレベルの攻撃で無いと通用しない相手との模擬戦を繰り返しているのでは?


「そうか」

 と思わず声が出てしまい、皆の注目を集めた。


「何が分かった?」

 と厳島教育官に問われる。


「厳島教育官の言葉に違和感があったんです。

 その違和感の正体が分かったんです」

 と答えると

「ほう。それで」

 と続きを促される。


「今日の試験の時点で、あの4人の体術に関しては正規隊員と同等。

 しかも、入庁すぐのペーペーではなく。

 中堅程度の実力だったのでは無いですか?」

 言うと、厳島教育官は豪快に笑いながら

「その通りだ。

 まだまだ魔力量や制御に甘さはあるが、防衛課相手なら十分通用する。

 しかも、まだ成長途中だ。

 将来が末恐ろしいな」

 と言う。


「どう頑張っても追いつけそうに無いわね」

 と明日香が言うと

「本当に悔しいが、同意しかない」

 と章が泣き言を言う。


「それがどうした?」

 と俺が言うと、二人は俺を見た。

「師匠や戦術課の隊員達が認めた者達だぞ。

 その才能の一部が開花しただけの話だ」

 言葉を区切り、章と明日香を見据えて

「全く同じ土俵で競えば、勝つ見込みなんて無いだろう。

 だから、違う方面で俺達の才能を伸ばせば良い。

 俺達は俺達の長所を伸ばして競えば良い。


 いや、競う必要は無いか。

 俺達は、俺達なりに強くなれば良い。

 それに共闘はあっても敵対は無い。

 無理に張り合う必要はないだろう」

 と俺が言うと

「零士の言う通りだな。

 アイツラに追い付いてやる位の方が良さそうだな」

 と章が返し

「それに零士と章の目標は、神城さんの補助サポートが出来る位に強くなる事でしょ」

 と明日香に言われ、俺と章は

「その通りだ」

「そうだった」

 と返す。

 ただ、章の奴、声に驚きが混じっていたから忘れていたな。


 厳島教育官が

「俺のセリフが無くなったな」

 と言った。


 俺達は厳島教育官の顔を一斉に見る。

「それでも敢えて言わせて貰おう。

 お前達がアイツラと同じ事をしても勝ち目はない。

 それ程に地力に差がつきつつある。


 だから今後の訓練方針は、各人の地力と長所を強く伸ばしていく方向にしようと思う」

 と言われ、俺達は頷く。


「これから言う事は他言無用だぞ」

 と言われ、俺達は

「分かりました」

「分かった」

「分かりました」

 と返す。


「まず第一に」

 と言って息を飲む。

 俺達も釣られて息を飲む。


「お前達3人は優等生になった」

 と言われ、直ぐに理解出来なかった。


「発表は明日だから、それまで喋るなよ」

 と言われてようやく理解が追い付いてきた。


「俺達3人が優等生になれたと言う事ですか?」

 と確認すると

「その通りだ」

 と言われ、喜びが湧いてきた。


「ほ、ほ、ほんとうに? 俺が優等生になれた?」

 と章が動揺しまくっている。


「見石も優等生だぞ。

 ただし順位は男子で8番目だった。

 もっと学科も頑張らないと次回は厳しいぞ」

 と言われ、ワナワナと震えながら俺を見て

「信じられない。学科なんて平均点行ったかどうか怪しかったのに」

 と言う。

「毎日の復習の効果が出たんだろう。

 これからはもっと頑張ろうな」

 と返す。

「やったー」

 と喜びを爆発させる。


 俺は内心で、章の学習計画を立てるのだった。

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