山田 零士 1年次 6月総合試験 反省会(1)

 昼食を食べた後、今日の試験の反省会の為に魔力制御訓練棟の休憩室に集まった。

 集合時間まで少し時間がある。

 この後、厳島教育官が来るまでの間に、お互いに今日の試験の反省と上位4人達と厳島教育官の打ち込みについて考える。


 正直、多少なりとも差を詰められたかと思ったが、逆に差を広げられた結果を見せられた。

 勝っていたのは魔力量だけと惨敗だった。


 正直、あのレベルの魔力纏身まりょくてんしんを3時間近く続けても、一切揺らぐ事無く維持し続けている事事態が驚愕きょうがくだった。

 俺の魔力纏身まりょくてんしんは、彼女達の魔力纏身まりょくてんしんと比べるとかなり粗削りに見えてしまう。

 そして、あのレベルで維持しようと思ったら1分も保つか?

 たぶん、あのレベルの魔力纏身まりょくてんしんが出来ない可能性が高い。


 そして2回目の試技は、厳島教育官への打ち込みだったのは驚いた。

 試技開始前に話を聞きに行くと

「この試験で今の彼女達の訓練の進捗状況が分かる。

 お前達もしっかりと見極めて分析をしろ。

 後で感想を聞くからな。


 午後1時半から反省会を行う。

 いつもの休憩室に集合だ」

 と言われた。


 まあ、その後の試技は、厳島教育官が全て受け止めるか躱したので、彼女達は1撃を入れる事が出来なかった。

 だが、あのスピードとパワー。

 そして、戦闘技能スキル

 全てが俺の想像を超えていた。


 俺が対峙したら、間違いなく瞬殺されていたな。

 そんな事を思っていると章が

「厳島教育官。遅いな~」

 と言うので時間を確認すると1時45分を回っていた。


「確かに遅いな。もう直ぐに来ると思うからこのまま待とう」

 と声を掛け、二人も頷いた。

 静かな時間が流れ、厳島教育官が来たのはそれから30分後だった。


「遅れてすまん。

 試験結果会議が長引いた。

 まあ、コレでも飲んでくれ」

 と言って、ジュースを差し入れしてくれた。


「それで試験についてどうだった?」

 と聞かれたので

「そうですね。

 取り敢えず目標だった魔力纏身まりょくてんしんの維持時間の1時間超えを達成したのは良かったですが、質は比べようが無い程お粗末でした」

 と言うと、章と明日香も

「俺も、目標時間は達成できたけど、あの4人の足元にも及ばなかったな」

「私も、目標時間は達成できたけど、あの4人は凄すぎ」

 と返した。


「まあ、そう気落ちするな。

 正直、俺でもあのレベルの魔力纏身まりょくてんしんを維持出来ん。

 俺も教わりたい位の事をやっているのだから気に病むな。


 実際、お前達の魔力纏身まりょくてんしんは、現役でも同じレベル・維持時間をこなせる者は少数だ。

 だから十分誇って良い事だ。

 だが、あのレベルを目指すのは悪い事ではない。


 では、あの4人についてはどうだ?」


「完敗ですね。対峙したら瞬殺される未来しか見えなかった」

 と俺が言うと

「土田さんと鳥栖さんの移動速度は、理由が分からなかった。

 なんで、あれであんなに早いんだ?」

 と章が言った。


 明日香は

「彼女達の1撃1撃が物凄く重そうでした。

 後、土田さんの蹴り。

 あれは、一体何をしようとしたのでしょうか?」

 と聞く。


「ふむ。そうだな。アイツラが使った技能スキルは理解出来たか?」


「硬化と放出と強打バッシュは、使ったと思う」

 と俺が答えると、厳島教育官は章と明日香をみるが、二人共首を横に振った。


 厳島教育官が

「大体合ってる」

 と言うと

「良く見てんな」

 と章が言うと、明日香がちょっと不機嫌になったみたいだ。


「あとは4人とも高速走法も使用していた。


 特に都竹の1撃は、俺が硬化の技能スキルで防がないといけない程、強力な衝撃インパクトを使った」

 と言う。


衝撃インパクト?」

 と章が口にすると、厳島教育官は

強打バッシュの強化版だ。

 強打バッシュと違い、放出魔力を収束する事で強打バッシュの数倍の威力を発揮する技能スキルだ」

 と説明した。


 それを聞いた章は

「それは凄い。俺も習得出来るかな?」

 とちょっと興奮気味にワクワクした様子で尋ねる。


 そういやこいつは、無意識に強打バッシュが使えてたな。

 師匠達がそれに気づいて、制御訓練を課していたな。


「見石の頑張り次第だな」

 と返され

「うっし。頑張るぞ」

 と1人気合を入れている。


「高速走法とは?」

 と聞くと

「読んで字の如く、早く走る為の技能スキルの総称だ。

 そうだな。

 あの4人は、足元の強化と身体強化を使って初速を大幅に上げてた」

 と言うと、章が食付き

「あの異常なスタートダッシュは、技能スキルだったのか?」

 と驚きの声を上げた。


「ああ、そうだ。

 4人共使っていたが、最初の1歩だけだったのは都竹を除く3人だ」

 と言われたが、意味が分からない。

 それは章や明日香も同じだった様で2人共首を傾げている。


「まあ、簡単に説明するぞ」

 と言われ、俺達は頷く。


「田中は、技能スキルでスタート台を作って身体強化で走った。

 鳥栖は、スタート台に自身の背中から魔力を噴出させて推力を増やした。

 土田は、スタート台に自身の足をバネの様に反発力を高めて走った。

 この3人の2歩目以降は、ただの身体強化による走りだ」

 言葉を区切り俺達を見渡す。


「そして最後の都竹だが、最初の1歩こそ田中と同じだ。

 2歩目以降も足の設置面の強化を行い加速させた。


 更に膝や足首の強化に柔軟性を保たせ、バネの様に反発力を高める事もしていた。

 だから、あの4人の中で一番早かった訳だ」

 再び言葉を区切る。


「まだ荒削りの状態であの速度だ。

 洗練されたら、現役を含めてもトップクラスのスピートになるぞ」

 と力強く言った。

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