神城 翔  親として(8)

 十分な距離離れた所で、振り返るが誰も追って来なかった。

 その事に、安堵を覚えると同時に罪悪感も覚えたが、俺が側に居ても何も出来ないからと、自分に言い訳をしながらショッピングモール内を巡る。


 ふと、目に入った本屋が入ったので立ち寄る。

 親子のコミニュケーションの取り方に関する本を探し、内容を確認立ち読みをする。

 何冊か確認するが、コレと言った本は見つからなかった。

 本屋を出て近くに置いてあったベンチに座る。


 座ると取り止めない思考に支配される。

 特殊な状況に置かれている優の心情を考えるなんて難しい。

 今の優は、男としての心情と女としての新たな心情がある様に見える。

 短期的に見れば、男の心情に寄り添う事が良いと思うが、今後の事を考えれば女性としての心情を大切にすべきだと思う。

 しかも、思春期真っ盛りだ。

 きっと、その心情は複雑になっているのではないか。


 だからこそ、俺は優の本音に触れるのが怖い。

 なのに妻やは、平然と触れようする。

 まるで、そこに触れる事が全ての始まりと言わんばかりだ。

 だから、優の間合いに入る事にためらいがない。

 俺には出来ない事だ。

 結局、少し離れた所から見守ろうと言う考えに落ち着いてしまう。


 そんな反芻思考はんすうしこうを繰り返し時間がすぎる。

 ふと気づくと、1時間近く考え込んでいた。


 重い腰を上げ周囲を見渡すと、大勢の人が休憩していた。

 中年以上の男性が多い気がするが、気に留めても仕方ないのでショッピングモール内を散策する事にする。


 モール内を散策していると、ピチピチの服を着た10代の女の子達とすれ違った。

 その服装を見て

「舞以外にもあんな服を着ている子達が居るんだ」

 と思わず声が零れた。


 今日の服装もそうだが、舞は良くこんな物が着れるなって思う程、身体に張り付く様な服を好んで着ている。

 今の優が着ても、小さいと感じるんじゃないかな。

 若い子の流行って良く分からないなと思いながら更に散策を行う。


 バームクーヘンの専門店を見つけた。

 イベントによる出張店だが、全国的にも有名なお店らしい。

 興味深く見ている内に

「そういや、優も良く食べてたな」

 と思い出し1つ購入する。

 更に散策を行っているとカラフルなドーナツが売られている専門店を見つけた。

 既にバームクーヘンを購入したからスルーするつもりだったのだが、なかなかに面白い品揃えなのでついつい見ている内に購買意欲が湧き、そこそこの数を購入してしまった。

 まあ、妻と舞が居るから残る事は無いだろう。

 取り敢えず車に荷物を置き店内に戻ると、妻から連絡が来た。


 妻達と合流し、お昼食べるお店を決めた後、妻達が買った品物を車に置きに行く。

 結構な量を買ったなーと思いながら車に荷物を置いてからお店に入る。

 妻達と合流して注文をする。

 既に注文が終わっていると思ったらまだだった。


 注文した物が届き各人が食事を取ったのだが、優の食べた量は極端に少なかった。

 妻と優と舞で3種類のピザを注文したのだが、各ピザを1/8に切った物を各1種類ずつの3ピース食べただけだった。

 昨日の夕飯も、今朝の朝食もかなり少ないと思ったけど、ちょっと心配になるレベルの少食だ。


 思わず

「大丈夫か?足りているのか?」

 と聞くと

「思った以上にチーズが重くて、もう無理」

 と返ってきた。


「大丈夫ですよ。

 今はまだ身体が慣れていないだけで、時間と共に食べられる量は増えますよ」

 と対魔庁の看護師さん。

 たしか、若桜さんがそう言った。


「そうですか」

 と答えるしか出来なかった。

 残ったピザは、妻と舞が食べていた。


 全員が食べ終わった後、お店を後にして最後のお店に向かう。

 今日の買い物は、若桜さんのご友人のお店で外出着を買って終了の予定なので同行する。


 そのお店を見て固まってしまった。

 そのお店は、非常に個性的な女性服のお店だった。


 舞が

「あの、このお店って、ロリータファッションのお店ですか?」

 と言うと、若桜さんが

「そうよ、ここは県内でも数少ないロリータファッションの専門よ」

 と返す。


 舞は

「ちょっと、お店見てきます」

 と宣言すると、お店に駆け込んで行った。


 その様子を呆然と見ていると若桜さんが

「それじゃあ、私達も入ろう」

 と言うと、優の手を取ってお店に入って行く。


 優と若桜さんと霜月さんが、何か話しながらお店に向かう。

 途中で、優が後ろを振り向いたタイミングで妻が

「優ちゃんにロリータファッション、何が似合うかな」

 と言う。

 唖然とした。


 そして俺は、優が自分で着ると思えなかったが、妻や舞に着せられる事はあるのかと思い至った。


 俺では2人を止める事は出来ないから、せめておかしくない服装である事と強く生きてくれと心の中で呟く事しか出来なかった。


 優達がお店に入ると、妻に腕を取られてお店に入店する事になった。

 お店の中は、見た事も無い物で埋め尽くされていた。

 そして、店員さんもその系統の服を着ていた。


 お店の一番奥のカウンターに居る店員さんと若桜さんが話しをすると、店員さんが奥に消えた。

 どうやら、店長さんを呼びに行った様だ。

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