神城 翔  親として(9)

 少しして、呼びに行った店員さんと白いYシャツに黒のスラックスを履いた店長と思しき女性が来た。


 若桜さんが

「ヤエ 久しぶりー」

 と親しげに言っているから、友人の店長なんだろう。

 そして、対魔庁の人達との会話の様子から知り合いなんだろう。


 その店長さんが

「メグの話だと、服の見立てをして欲しいと言っていたけど、誰の服を見立てるのかな?」

 と言うと、若桜さんが優を前に押し出して紹介している。


 そして

「この子ね、はじめまして

 ロリータファッション専門店ピクシーゲートの店長 太和たいわ 八重花やえかです。

 どの様な服をお求め?

 貴方なら、甘ロリ、クラロリ、ゴスロリ、華ロリ、どれも似合いそうね。

 特に、クラロリ、ゴスロリがよく似合うよ」

 と勧めている。


 隣で妻が

「和ロリも似合いそうね」

 と言っている。

 俺には違いが分からないのだが…。

 これらの服って外出着になるのか?


「こら、ヤエ。

 優ちゃんが困ってるでしょ。

 事前に連絡したように普段使いのアウターを数点見立てて」

 と若桜さんが文句を言った。


「悪い、悪い。

 かわいい女の子を前にしたら、是非とも自分のデザインした服で着飾らせたいと思うのは仕方がないでしょう。

 どりあえず、移動しよう」

 と言って、カウンターから出てお店の外に向かう。

 優達も後に続く。

 慌てて店内を見渡すと、服を眺める舞を発見した。

 舞の側に行き。

「舞。店長さんと一緒に移動するけど、まだ服を見ていくか?」

 と声を掛けると

「分かった。行く」

 と言うので、慌てて優達の後を追った。

 行き先は、隣の店だった。


 全員が店内に入ると、店長さんに

「アパレルショップ ヤエにようこそ」

 と笑顔で言われた。


 優の

「えーと、このお店も店長さんのお店?」

 と言う質問に


「その通りよ。このお店もヤエが経営しているのよ」

 と若桜さんが答えた。


「ここは、八重花がデザインした衣服・小物や厳選した衣服・小物をリーズナブルな値段で売っている店だ」

 と霜月さんが補足した。


「へぇー、すごいんですね」

 と優が感心している。


 まだ30前だと思うのに、既にお店2店を経営しているなんて凄いやり手だなと感心していた。


 店長さんを先頭にお店の奥のカウンター前まで来ると、急にしゃがんで優の目線に合わせると

「ところで、モデルやってみない?」

 と問いかけた。


「ヤエ、どういうつもり、一応概要は教えたはずよね」

 優の後ろに立っていた若桜さんが、低い声で訊いていた。


「聞いたよ。

 でも、これ程の素材を放置出来ない。

 だから、デザインの資料用とかお店の店頭ポスターとかカタログのモデルもお願いしたい。

 当然、相応の対価は払うよ。色々と入用で費用が嵩かさんでいるはずだよね。

 モデル代として、うちの衣服の上下セット6点でどう?

 氏名とかの情報は、当然伏せるから」

 と、八重花さんは提案する。


 それを聞いた妻は

「ちらっと見た値段だと、上下セットで4万位だったわね。

 6点なら24万は下らないわ」

 と呟いている。

 俺は金額を聞いて苦笑いをするしか無かった。


 舞は、優にやった方良いと力説している。

 対魔庁の人達も真剣に検討している。


 なんだが1人蚊帳の外だなと思いながら、苦笑いが深くなる。


 妻は、店長さんに近づくと

「秋物と冬物 3点ずつに出来ます?」

 と尋ねる。


 店長さんは

「可能だよ。冬用のコート1着もおまけに着けよう」

 と即答する。


 すると妻は、優の元に行き

「優ちゃん、モデルの件お願いできる?」

 とお願いしている。


 優は少し困った顔をした後

「氷室さん、モデルって受けても大丈夫ですか?」

 と言う。


 一瞬言い淀んだ後

「太和さん、お店で使う以外に写真等の管理は大丈夫ですか?」

 と店長さんに問うと

「大丈夫。

 資料、ポスター、カタログ以外には使わないから。

 カタログも店舗用にしか載せないよ。

 それに、執拗に個人情報を訊く不埒な連中は、旦那に対応してもらうから」

 と笑いながら返した。


 氷室さんは、渋々と言った感じで

「まあ、大丈夫でしょう」

 と言った後、大きなため息をついた。


 霜月さんが

「彼女も、ある意味うちの関係者だしな」

 と何処か疲れた感じで言う。


 関係者?と首を捻っている内に、優が

「ん? 店長さんが関係者?」

 と問うと、霜月さんが

「彼女の名前を聞いて分からなかったか?」

 と優に問う。


 優は

「店長さんの名前?

 確か、太和 八重花さんですよね?」

 と答えると、微苦笑を浮かべ

「そうだ。優ちゃんも会っているぞ」

 と言う。


 優は、少し考え込んだ後

「私が会った太和さんって、太和教導官?」

 と答えた。


 若桜さんが

「その太和教導官の奥さんがヤエですよ」

 と軽い口調で教えた。


 優は

「えーーーー」

 と大きな声を出して驚いている。


 俺は、その太和教導官という人との面識が無いので、どうしてそんなに驚いているのか分からない。


 ちょっと遠い目をした氷室さんが

「美女と野獣カップルとして、東海支局では有名です」

 と言った。


 店長さんは

「いやー、照れるな」

 と言って後頭部に手を当て照れている。


 その店長さんの旦那さんが野獣って比喩されているのか。

 と言う事は、「大柄でゴツくて強面なんだろうな」と会った事も無い人を想像していた。

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