村田 聖子の決断(1)

 はぁ~。

 どうしてこんな事になっているのだろう。


 私達は、派閥全員が集められた女子寮の談話室で派閥のリーダーに怒られている。

 正直言って、どうでもいい。

 言っている内容は、ただの八つ当たりなんだから。

 だから、上の空で聞いている。


 派閥に入ったのは、非常に向上心もあって切磋琢磨出来る仲間と共に頑張れると思っていたのに、内情は腐っていた。


 このリーダーは、自分達よりも上の奴は潰せば良いみたいな考えだ。

 勧誘の『仲間内で切磋琢磨する事で上を目指そう』と言うのは、本当にお題目だけだった。


 今、怒られているのも派閥の幹部連中が考えた作戦が失敗したからだ。

 その作戦と言うのが『1年生の上位4人組に対して、教室で弾劾だんがいを行う』と言う内容だった。

 その為に男子の派閥にも協力を依頼したそうなのだが、教育官達に一斉に非難されランニングの刑を言われたばかりだ。


 そして、個別に事情聴取され、派閥の幹部達も呼び出され処罰を受けた。

 その結果、優等生を剥奪されて怒っているのだ。


 派閥の幹部が示した作戦内容は

「学年上位4人組を教室で、男子5人女子7人で囲み大声を上げながら弾劾しなさい。

 そして、弾劾しながらクラスメイトや教育官を味方に引き込むのよ。

 上手く弾劾出来れば良し。

 その場で弾劾が上手くいかなくても、教育官が疑問に思ってくれれば良し。

 そして、彼女達の秘密を握るのよ」

 と言ったからだ。


 最初に作戦内容を説明された時、「はぁ?」となったものだ。

 始める前から成功しないと分かっているのに、何故自信満々に言えるのか謎だった。


 私は、彼女達が毎日朝早くから訓練をしているのを知っているし、休みの日にも訓練をしているのを知っている。

 だから当然の結果だと思っていたが、派閥の幹部やクラスのグループのリーダーの宮園さんは、そう思っていなかった。

 神城さんが、不正をしてあの4人の成績を操作していると決めつけていた。

 だから、成績や能力アビリティ疑問を提起しろ言い掛りをつけろと言った。


 幹部達と宮園さんの会話は、何処にどう言い掛りをつけるか、どの様な言葉を使いどの様な口調で責めるかと言う内容だった。

 本当に聞けば聞く程、呆れたものだった。


 だから、先日の作戦を言い渡された時に意を決して

「今回の作戦の成功率は、かなり低いと思います」

 と口を挟んだのだが、一喝され

「成功率は100%よ」

 派閥の幹部と宮園は、自信満々に馬鹿笑いをしていた。

 その結果が惨敗だったのだ。


 今回のお怒りの結果、次の指示が下ろされた。

 それは

「武道訓練中に能力アビリティを使って、病院に送ってあげなさい。

 そして、アチコチで陰口を広げて信用を失墜させるのよ」

 と言うものだった。


 流石に呆れを通り越して怒りを覚えた。

 それなのに宮園とその腰巾着共は

「やってやる」

 とやる気を出し悪意を募らしていた。


 派閥のリーダーが

「今度こそ、しっかりやれ」

 と檄を飛ばす。


 宮園と腰巾着共が威勢良く応答するが、私は

「嫌だ」

 と叫んだ。


 その場に居た全員が私を見た。

 内心、思いっきり縮こまった。

 思わず謝り倒したい気持ちが襲ってきたが、必死に思い留まる。


 一生懸命周囲を睨み

「こんな卑怯で卑劣な事をする為に派閥に入った訳では無い。

 仲間と共に切磋琢磨出来ると思ったから入ったんだ。

 自分達の言動が恥ずかしくないのか?」

 と叫ぶと、派閥のリーダーが

「それがどうしたというの。

 貴方の様に才能が無い人間は、決して上に上がる事は無いわ。


 そんな人達の有効な使い方は分かる?

 それは、才能がある者達の踏み台になる事よ。


 才気溢れる私の踏み台にしてあげてるって言ってるのよ。

 光栄に思いなさい」

 と頭のおかしな事を言う。


「下らない。

 私は、国民の為になる人材になる為にココに来たんだ。

 お前ごときの踏み台になるためでは無い。


 これ以上、不快極まりない連中と一緒に居るつもりはない」

 と言い捨てて、談話室の出口に向かう。

 後ろで派閥のリーダーがヒステリックに喚いている。

 それを幹部連中が押さえている様な声が聞こえる。


 足早に談話室を出ると、三村さんと岸さんも出てきた。

 私に鉄拳制裁を行う為に来たのかと思って身構えたが

「良く言ってくれました。お陰で抜ける決心が着きました」

「そうっす。もうね。リーダーも宮園も馬鹿すぎて付き合いきれんっす」

 と言って、私の肩を叩いた。

「それで、これからどうするっすか?」

 と岸さんが聞かれた。


 どうしよう。

 何も考えていなかった。

 私が考え込んでいると

「取り敢えず、寮監の所に行って状況を説明しない?」

 と三村さんに言われた。


「どうして?」

 と聞くと

「ほら、今の私達って、アイツラの仲間と思われているじゃない。

 だから、派閥から抜けましたと報告して、今後どう立ち回ったら良いか相談した方が良いのかなって」

 と言うので

「取り敢えず、そうしよう」

 と言うと、岸さんも

「了解っす。 アイツラが追ってくるかもしれないから急ぐっす」

 と返された。


 こうして私達は寮監室に大急ぎで向かう。

 寮監室の前に着くと、二人に押し出される様に扉の前にたった。

 思いっきり緊張している。

 そう自分で分析出来る程、平常心とは遠い所に居る。

 深呼吸をして右手で拳を作り、ノックをしようとしたら

「開いとるけん。入りんしゃい」

 と中からダミ声が聞こえた。


 心臓が、バグバグと音を立てている。

 一生懸命平静を装い

「失礼します」

 と大きな声を出して扉を開いた。

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