村田 聖子の決断(2)

 扉を潜ると、椅子に座った寮監が鋭い眼付で私達を見ている。

 思わず背筋が伸び肝が冷える。


 寮監の矢野さんから

「そんな所につったとらんで椅子に座りな」

 と言われ、彼女の対面の3人掛けソファーに座る。


 それとなくソファーの端に座ろうとしたが、二人が素早く動いた為、矢野さんの対面の真ん中に座る事になった。


 矢野さんの鋭い眼光に睨まれ

「それで何のようじゃ?」

 と言われ思わず息を呑んだ。


 私より遥かに小さい御老体のハズなのに、私より遥かに大きく感じる。

 喉が渇く。

 唾を飲み込み。

「私達、派閥とクラスのグループを抜けました」

 と、声を絞り出す。


「ほう。それで」

 と先を促される。


「派閥の幹部は、神城さん達5人に対して、武道訓練中の事故に見せかけて、能力アビリティで攻撃する様に指示しました。

 また、悪評をアチコチで立てる様にも指示しました。


 私達には、これを止める力はありません。

 なので、まずは寮監に報告をと思った次第です」

 と報告する。


「うむ。分かった。

 寮内の事はまかせんしゃい。


 教育官にはわしからも申し付けるが、おぬしらからも報告せい。

 良いな」

 と言われたので

「分かりました」

 と答えると

「他には?」

 と言われたので

「1つ相談したい事があります」

 と言うと、興味深そうに目を細めた。


「神城さん達に謝罪したいと考えています。

 どうしたら良いでしょうか?」

 と問うと、目を瞑り少しした後

「教室で、訓練生達の前で堂々とやりんしゃい。

 悪い様にはせんじゃろう」

 と答えが返ってきた。


「ありがとうございます」

 と言って、頭を深々と下げる。

 岸さんと三村さんも慌てて下げる。


「他には?」

 と言われたので

「ありません。明日、朝一で教育官室に出向きます」

 と答えると

「それで良か」

 と言って頷いた。


 寮監室を出ると一気に緊張が解け脱力した。

「やっぱ、凄いっす」

 と言う言葉と共に岸さんに背中を叩かれた。

 バンと良い音がして背筋が伸びた。


 流石に痛くて悶えていると

「あ、ごめんっす」

 と言って、背中を擦る。


「報告ご苦労様です」

 と三村さんが苦笑いしながら言うと


「この後は、どうするっす?」

 と岸さんが尋ねる。


「今日は終わりね。続きは明日ね」

 と三村さんが言った。


「明日は、朝食を食べた後に教育官室に行く。

 その後、ランニングコースに行こう」

 と言うと


「え、休みの日も使えるんすっか?」

 と岸さんが聞く。


「それは……分からない。

 だから、明日、教育官室に行ったついでに聞こうと思う」

 と言うと

「たぶん大丈夫だと思いますが、念の為に確認した方がよいですね。

 それに休日にも走れれば早く刑罰を終える事も可能になる訳で、宮園達より先に訓練に復帰して差を着けたいですね」

 三村さんも賛同した。


 この日は、このまま私の部屋の前で別れた。

 私の部屋は、東端に移動された者達の中で最も西側にある。

 そして岸さんと三村さんは、隣の部屋で同室だ。


 部屋に入ると、他のクラスで同じ派閥の子が居た。

 彼女はスマホから顔を上げ

「おかえりなさい」

 と言った。


 私は

「ただいま」

 と答える。


 彼女は、私達が東端に移動された時の巻き沿いにされた子だ。

 だから、私達にどんな感情を持っているか分からない。

 ちょっと警戒していると

「警戒しなくても大丈夫ですよ。私も派閥を抜けましたから」

 と返ってきて、思わず

「え?」

 と声を漏らした。


「以外ですか?

 正直、派閥のやり方に疑問を持っていた人は多かったのですよ。

 でも、なかなか声を上げにくかった。

 正直に言うと上級生が怖かった。

 だから今まで素直に指示に従って来ましたが、貴方が声を上げてくれたので便乗して辞めました」

 とイタズラが成功した子供の様な表情で言われて拍子抜けた。

 正直、罵倒される位の覚悟をしていた。


「そうそう。

 貴方達が部屋を出た後、私を含めた派閥に居た人の半数以上の人が派閥を辞めましたよ」

 と言われた。


 私は事態を理解すると震えが襲ってきた。

 そして、崩れる様に自分のベッドに腰掛けた。


 派閥が空中分解したのだ。

 その原因が私にあるのは明白だ。

 復讐されるのではと考えると恐怖心が襲ってきた。


「だぶん大丈夫ですよ。

 上級生も結構抜けたから何か仕掛けてくる事は無いと思います」

 と言った後、真正面から私の頭を抱え込むして背中を軽くトントンと叩く。


「付き合いは短いですが、相当無理をしているでしょう?」

 と言われ身体が硬直した。


 優しい声で

「やはり、その性格は演技?」

 と言われ、私はゆっくりと頷く。


 彼女は私を離し自分のベッドに腰掛けると

「そうだよね。

 その性格が元来の物なら、弾劾騒動の前に辞めているはずだもの」

 と言われた。


 図星を突かれ声を失っていると

「大丈夫。私は味方よ。誰かに言いふらしたりしないから」

 と言ってカラカラと笑っている。


 私が俯き、組んだ両手を見つめていると大きなため息が聞こえた。

 思わず顔を上げると

「貴方、ひょっとして相当な引っ込み思案?」

 と聞かれたので頷いた。

 きっと引かれたと思って、思わず目をキツく閉じる。


「そうか。じゃあ、相当頑張ったね」

 と優しい声が返ってきた。

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