村田 聖子の決断(9)
「こう言ったら変かも知れないっすが、神城さん達に取って当たり前過ぎる技術なのではないっすか?」
と岸さんが言う。
「当たり前?」
と私が言うと
「そうっす。
ほら、あの難癖をつけた時っす。
彼女達は、秘密は無いと答えたっす。
だから、彼女達に取って隠していない技術だったんじゃあないかなと思ったっす」
と岸さんが言うと、三村さんは考え込んでから
「そう考えると、始めから頭を下げて教えを請えば、普通に教えて貰えたかもしれない技術だったと言う事になるわね。
いや、彼女達は戦術課の人達から指導を受けている。
だから、戦術課では当たり前の事だから秘密ではないと言う意味と考えれば、何も嘘を言っていなかった。
だから、訓練校基準で文句を言っている私達と話が噛み合っていなかった事も当たり前か。
当然、その事を知っている教育官達が私達の味方をする訳は無かった訳ね」
と言って大きくため息をついた。
和田さんが、ちょっと遠い目をしながら
「彼女達は、訓練生から
と言うと、私と三村さんが驚きを表し岸さんが
「逸脱した実力者っすか?」
と驚きの声を上げる。
和田さんは
「あ、そう言えば、あなた達は直接見ていないし、1-AからはA・Bクラスの訓練生は彼女達だけだから、知らなかったのも仕方ないわね」
どこか仕方ないなという感じで言うと、声色を落として
「彼女達は、6月の試験の時に最大出力の
しかも、教育官が中止しなければもっと続けられたでしょう」
と言った。
「
と岸さんが言うと
「ええ、その通りよ。
中強度ならそれ程難しくないのだけど、最大出力になると維持が物凄く難しいの。
今、能力訓練でやっているけど、私は10秒が限界よ」
と言って、お手上げポースを取る。
「それを3時間って、化け物っすか?」
と岸さんが感想を言うと、和田さんは
「問題はその後の事ね。
彼女達の課題が、厳島教育官に1撃を入れろって言うものに変わったのよ。
結果的に、4人共1撃を入れる事が出来なかったのだけど。
1人目は、ミットに当たったドスって重たい音が3連続で聞こえて、ハイキックの姿勢で停まっていたから、最後がハイキックだった事しか分からなかった。
2人目は、ドスって音が2連続で聞こえたけど、2度目の方が圧倒的に重い音がして、左のストレートを打ち込んだ位しか分からなかったわ。
3人目は、ドスって音がしたと思ったら、教育官は尻もちを着いた状態。
攻撃を仕掛けた方は、四つん這いになっていたのよ。
4人目は、右ストレートを打った事は分かったけど、ドスンって重い響きと衝撃が襲ったわ。
そもそも、教育官との対峙距離が3m以上離れていたのに、どうやって距離を詰めたのかさえも分からなかったし、攻撃そのものも見えなかったわ。
だから、何をしたのか良く分からなかったの。
そんな人達よ。
そして、その事を仲の良い上級生に話したら、おそらく3年生では勝てない。
研修生でも厳しいと思うと言う回答よ。
既に隊員レベルの実力を身に着けつつある人達よ。
戦術課の隊員達が認めた才能って、伊達ではなかったって事」
と言われた。
「はぁ。その事を知っていたら、愚行を行う前に抜けていたよ」
と三村さんが愚痴った。
私が
「その情報って派閥に居た人はどの位知っていたんだろう?」
と言うと
「その情報を先輩にした後で幹部の人達に呼び出されて話をしたから、主要な人は知っていたと思うよ。
あと、A・Bクラスの他の訓練生にも聞いていたみたいだから、結構な数の人が知っていると思う」
と返ってきた。
「幹部の人達ってバカっすね」
と岸さんが言うと、三村さんも
「本当にその通りだね」
と同意した。
「まあ、貴方達が人柱になって真実だと確証を得られたから、半数以上の人が抜ける事態になったのでしょう。
まあ、私も近々抜けようかなと思っている所で、貴方達が行動してくれたおかげで抜ける切っ掛けになってくれたから助かったのだけどね」
と言って、イタズラ子ぽい顔をした。
「まあそれでも、真面目に刑罰を熟している私達を、多少なりとも評価してくれたと思って良いんじゃないかな」
と言うと
「そうすっね」
「その通りですね」
「そうだね」
と返ってきた。
「あ、そうそう。忘れてた」
と言って、和田さんは鞄の中をゴソゴソと何かを探し出し、私達に手渡してきた。
渡された物は、キッチンタイマーだった。
「これはなんっすか?」
と岸さんが不思議そうに見ながら言う。
「キッチンタイマーだね」
と私が答えると
「キッチンタイマー? なんすか? 時間を図るものっすか?」
と返ってきた。
「カウントダウン式のタイマーだよ」
と答え、使い方を説明すると
「へぇー、便利っすね」
と言って、キッチンタイマーを持ち上げて見ている。
「これはどうしたの?」
と聞くと
「神城さんが、これなら能力訓練時間でも使えるでしょうと言って置いていったの」
と言われ
「普通に良い子じゃないっすか」
と岸さんが驚きの声を上げる。
人間性でも負けた気がして落ち込んでいると
「どうしたっすか?」
と岸さんが、私の覗き込みながら言った。
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