村田 聖子の決断(8)

 翌朝、普段通りに起きたが不快な朝だ。

 朝から身体がだるい。

 私の2日目は、特に重いのでこの時期は憂鬱ゆううつだ。


 食欲は無くても無理に朝ご飯を食べ、ランニングコースで走る2人をコースのスタート・ゴール地点に設置されている休憩所ベンチから見守る。

 一緒に教室に入るが私の調子が悪いのは一目瞭然だ。


 だからだろう。

 飯田と宮園達が気持ち悪い笑顔をたたえている。


 彼奴等のせいで気分が悪くなったし、お腹も痛いし最悪だ。

 憂鬱ゆううつな気分で能力訓練の時間を迎える。


 当然、この時間は見学だ。

 監督の教育官にその事を告げ、休憩所ベンチから二人が走るのを見守る。

 私の横に教育官が立っているので、飯田と宮園達は何も仕掛けて来ない。


 放課後も二人が走るのを見守る。

 正直もどかしいが、今は仕方が無いと自分に言い聞かせながら見守る。

 幸いな事に私の生理は3日で終わった。


 その翌日の金曜日の朝からランニングに復帰した。

 復帰したからと言って無理はしない。

 三村さんと岸さんと同じペースで走った。


 能力訓練の時間も同じ様に走った。

 飯田とか宮園達から何か言われると思ったが、何も言ってこなかった。

 まあ彼奴等あいつら的には、自分達の方が圧倒的に優位に立っていると思い込んでいるのだろう。

 能力訓練の時間だけを見れば、その通りなのだから仕方ないか。

 ちなみに彼奴等あいつらの走破率は5回中4回位だ。

 2日に1回は、制限時間内に走りきれていない。

 その分、無駄に走るだけなのにな。


 放課後、1セット目を走り終わるとゴール地点に和田さんと神城さん達が居た。

 和田さんは、毎日様子を見に来ているので分かるが、なんで神城さん達が?


 私が息を整えて声を掛ける前に

「整列、気をつけ」

 と言う神城さんの号令に疑問を持つ暇も無くしたがってしまった。


 神城さんの前に私達3人と和田さんの4人が横並びに並び、神城さんの後ろに田中さん達4人が横並びに並んでいる。


「中強度の魔力で全身をおおいなさい。中強度の魔力纏身まりょくてんしん開始」

 と次の号令が飛ぶ。


 慌てて全員がその指示に従う。

 神城さんは、私達4人に不備を指摘し修正を行う。


 ある程度形になると

「そのまま5分維持」

 と指示が出た。


 維持に精一杯で、余計な事を考える暇がなかった。

 ピッピピ、ピッピピ

 と電子音が響くと

「ヤメ」

 の号令が響く。


 ホッとして魔力を霧散させると

「次の周回に行きなさい」

 と号令が降りる。


 思わず神城さんの顔を見る。

 無表情だが威厳というか有無を言わせない威圧感がある。

「さあ、行け」

 と強く号令を掛けられ走り出す。


「あなたまで走る必要は無いでしょう」

 と言う声が聞こえたのでちょっと後ろを見ると、和田さんが手を掴まれて止められていた。


 走り出して2周目に入った頃に気づいた。

 足が軽い。

 並走している三村さんと岸さんを見ても、疲れで足が重くなっている様子がなかった。

 5周走り終わり、ゴール地点には神城さん達は居なかった。

 そこに居た和田さんから、直ぐに5分間の中強度魔力纏身まりょくてんしんを行う様に指示が来た。

 取り敢えず言われた通りに行った。


 5分間の中強度魔力纏身まりょくてんしんを終えると、和田さんが

「なんでも神城さんが言うには、運動直後に中強度魔力纏身まりょくてんしんを5分行うだけで、かなりの疲労改善になるって。

 あと少しの間、運動能力を向上させる効果もあるそうよ」

 と説明された。


「だったら、すぐに行くっす」

 と岸さんがランニングコースに向かった。


 私と三村さんも、岸さんに続いてランニングコースを走った。

 放課後の時間に3セット走れた。

 それなのに、1セット目より3セット目の方が良いタイムを残していた。


 お風呂に入って夕食を食べながら話しをしていると、和田さんが思い出したように

「そうそう。

 さっきは言いそびれたのだけど、朝と晩に10分ずつ行うとより効果があるそうよ。

 また、魔力制御の訓練にもなるから必ずランニングとセットで行うようにって」

 と言われた。


 すると岸さんが

「教えてくれるって事は、少しは認めてくれたって事っすね」

 と言うと、三村さんが

「むしろ、それ以上かも知れない」

 と硬い声で言う。

「どういう事っす?」

 と岸さんが問うと、三村さんは

「誰も知らない事を教えてくれたのよ」

 と言う。


「え!」

 と声を漏らし、岸さんが

「ど、どういう事っす?」

 と問うと、三村さんは

「ほら、使える物は使った方が良いじゃない。

 だから、派閥を抜けた上級生達に疲労を軽減する方法とか、疲労回復する方法とか早く走る方法等を聞いたり、技能書を調べたりしたのよ。

 早く走る技能スキルは、先輩方に教えて貰ったり、技能書にも書いて有ったけど、今の私達でも出来るものもあったけど短時間しか維持出来ない事が分かったの。

 疲労軽減や回復方法もあるにはあったんだけど、高度すぎて今の私達には無理ね。


 それなのに、今の私達でも効果のある方法を教えてくれたのよ。

 それって凄い事よ。

 どこの派閥でも知っていたら、秘密にしていてもおかしくない程の技術をまるで当たり前の技術の様に教えてくれたのよ」

 と言って、呆れた様な顔をした。

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