村田 聖子の決断(6)

 翌朝も普段通りに起きたが、ちょっとお腹が痛い。

 今日のイベント謝罪の事を考えると、更に痛みが強くなる。


 朝の身支度を済ませ、訓練着を着て制服を持って食堂に4人で向かい朝食を食べる。

 自主訓練をする和田さんと別れ、ランニングコースに移動して2本走る。

 走り終わると岸さんが

「足がプルプルするっす。入校してからサボりすぎた報いっすかね」

 とい言ったので

「大丈夫?」

 と確認すると

「ダイジョブっす。半日も休めばちゃんと走れるっす。

 けど、今まで程のスピードが出せなくなるっす。

 だから、ギリギリになりそうっす」

 と返ってきた。


 岸さんは、回数を熟す程ペースを早くなっていて、今朝も1セット16分台で走っていた。


 水場で顔を洗い、更衣室に移動して制服に着替えてから教室に移動する。

 神城さん達が教室に来る5分前に教室に入る。


 教室に入ると宮園とその取巻きが、睨んでくるが無視をする。

 離れた所に居る飯田達は、こちらをチラっと見ただけだった。


 私の席に3人で集まる。

「あー、なんか緊張してきたっす。

 トチらない様にって考えるとガチガチになってきたっす」

 と岸さんが珍しく泣き言を言う。


「大丈夫よ。私も緊張しているから。

 でも、逃げちゃだめよ。

 皆でやらないと意味ないんだから」

 と三村さんも言う。


 そう、謝罪の内容は、昨日内に話し合って決めていた。

 そのトップバッタが私なのだ。


 なぜ私がトップバッタなのかと言うと、私が一番ガタイが良く威圧感があるので、一番最初に謝罪を行った方が効果が大きいと三村さんが言い、岸さんが賛同したからだ。

 その為、私もガチガチに緊張している。


 そうしている内に神城さん達も教室に入ってきた。

 各人が自分の机に鞄を置いた後、鳥栖さんの席に集まった。

 彼女達は、毎回集まる席が変わるので集まるまで分からない。


 私達は3人で彼女達に近づく。

 当然、彼女達も私達に気づいている。

 彼女達が声を上げる距離より少し手前で止まり

「神城さん。田中さん。都竹さん。土田さん。鳥栖さん」

 と緊張した声で声を掛ける。


 彼女達が私達を見る

「何の用でしょうか?」

 と神城さんが反応する。


 私は、大きく息を吸い込むと

「先週、弾劾と言う愚行を行い。

 貴方達に迷惑をお掛けしました。

 申し訳ありませんでした」

 と言い切って、腰を90度まで折り頭を下げる。

『申し訳ありませんでした』

 と二人も声を上げ、同じ様に頭を下げる。


 頭を下げているので、彼女達がどの様な顔をしているかは分からない。

 ただ、周囲がざわついているのは分かる。


「どういう意味での謝罪ですか?」

 と神城さんの冷たい声が聞こえた。

 言葉の例えでは無く文字通り背筋が冷たく感じる。

 今までに感じたことの無い重圧プレッシャーを感じる。


 頭を下げたままの三村さんが

「今回の謝罪は、私達の都合によるものです。

 ですが謝罪したい意思は本気です」

 と声を張り上げる。


 岸さんも

「うちらは、派閥と宮園達から縁を切ったっす。

 だからと言って、やった事が許されるとは思っていないっす。

 受けた罰はきちんとこなすっす」

 と声を張り上げる。


「謝罪を受け入れて欲しいとは言わない。

 ただ、自分達のケジメの為の行為で貴方達に迷惑を掛けている事も理解している。

 その事を含めて」

 と私が言った後、3人で声を揃えて

『申し訳ありませんでした』

 と声を上げる。


 沈黙が場を支配する。

 正直、どれ程の時間が経ったのか分からない。

 冷や汗がダラダラと流れる。


「現状で貴方達の謝罪を受け入れる事は出来ません」

 と神城さんの冷たい声が聞こえた。


 やっぱりダメかと思っていると

「ですが、貴方達がやり直そうとする意思は理解しました。

 よって、貴方達の今後に期待して、この件は保留とします」

 と言う神城さんの声が聞こえた。


 思わず顔を上げると

「行動で意思を示しなさい。

 私達は、貴方達の行動を見て判断しましょう」

 と言われた。


 その顔にはあわれみでもさげすみでも見下しでもなく、穏やかな笑みが浮かんでいた。

 思わず見とれてしまった。


「この件は終わりです。頭を上げなさい」

 と言われ、頭を上げる。


「霧崎教育官が来ています」

 と言って、自分の席に戻っていた。


 三村さんに肩を揺さぶられて我に戻った。

 霧崎教育官の

「ほら、席につけ」

 声が聞こえたので、慌てて自分の席に戻る。


 授業中や合間の休憩時間に、こっそりと神城さんの顔を見るけど普通だ。

 あの時の神秘的な顔をしていなかった。


 お昼休み、食事を終えて人気の少ない校舎裏の日陰に集まっていた。

 この場所は、ランニングコースと校舎から少し離れた場所にあり、あまり人が来ないので静かに過ごせる。


 今、この場所に居るのは、私達3人と和田さんの計4人だ。

 和田さんには今日謝罪する事は伝えていたので、その結果を教えるためだ。


 和田さんは

「そう。やっぱり受け入れて貰えなかったか」

 と言って、ため息をついた。


「でも、無駄ではありませんでした。

 最低限の誠意は受け取って貰えました」

 三村さんが言うと、岸さんが

「保留の事っすか?」

 と首を捻りながら言った。


「その通りよ。

 問答無用で拒否しても良かったのに、私達の立場も考えてくれたのよ。

 十分な結果だとおもう思うわ」

 と三村さんが言うと岸さんが

「良く分からないっすが、無駄じゃなかったんなら良かったっす」

 と返す。


「貴方の裏表の無い性格は嫌いでは無いですが、もう少し交渉事も理解しましょう」

 と三村さんが、呆れた様に言うと


「試合とかの駆け引きは分かるっすけど、交渉とかの駆け引きは無理っす」

 と言って、お手上げポースをするのだった。

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