村田 聖子の決断(5)

 三村さんが

「それって、貴方も普段からこの時間にご飯を食べてるの?」

 と聞かれたので

「そうだよ」

 と答えると、岸さんが

「早起きして何をしてるっすか?」

 と聞かれたので

「8時過ぎまで自主訓練をしていたよ。

 ほら私才能が無いから、人一倍訓練しないとついていけないからね」

 と言うと

「十分才能あると思うっすけど」

 と岸さんが言う。

「ありがとう。

 それは、自主訓練の成果が出ていたって事だね」

 と返した。


 三村さんが

「あれ、あっちの3人組もSクラスじゃあなかったかな?」

 と言うので、そっちを向くとSクラスの3人が揃って食堂に入ってきた。


「そうだね。

 あの3人もこの時間の常連だね。

 平日は、もう少し早い時間に来るよ」

 と和田さんが答えた。


「日曜日にココで朝食を食べているのは珍しい。

 今日は外出しないのかも知れない」

 と私が言うと

「じゃあ、普段は日曜日に外出しているって事っすか?」

 と岸さんが言うと、三村さんが

「そう言えばあの3人。

 対魔庁OGの人達から指導を受けているって噂があったね」

 と返す。


「なんか、ズルいっす」

 と岸さんが愚痴ると

「上位4人は、現役の戦術課隊員から指導を受けて。

 それに次ぐ3人は、対魔庁のOGから指導を受けている。


 だから、派閥の幹部達が文句の1つも言いたくなるのは分かるけど。

 そういった人脈を作り活かすのも、個人の才能だからね。


 それに優秀な人に指導されたからと言って、強くなれる訳では無いのに。

 どれだけ、その人が努力したかによるものなのに。


 努力した結果にケチを付けても無駄なのに……。

 本当に馬鹿ね」

 と和田さんが言い捨てた。


「うちら、基本土日は訓練していなかったっす。

 だから差を着けられたって事っすか?」

 と岸さんが言うと

「その通りよ。

 才能と努力。

 そして、優秀な指導者が着いてる。


 そんな人達相手に凡才の私達が、他の訓練生に毛が生えた程度の訓練で超えられると思う方がおかしいと言うもの。

 足元にも及ばないのは当然の事でしょう」

 と三村さんが言う。


「私もそう思う。

 彼女達は、宮園達の何倍も訓練をしている。

 それなのに自分より上なのが許せないって、やっぱりおかしいよ」

 と言うと

「彼女達に追いつくのは、難しい…いや、無理か。

 でも、少しでも近づく為にも早く刑罰を終えましょう」

 と三村さんが言う。


「そうだね。まずは刑罰を終わらせよう」

「賛成っす。頑張って走るっす」

 と私と岸さんが答える。


 私達は、朝食を食べ終わるとランニングコースに向かった。

 和田さんは自主訓練を行うとの事で厚生棟を出た所で別れた。


 朝から走り込んだ。

 1セット(5周)走ると15分休んで次を走る感じで行う。

 ただ数を熟すだけなら休憩時間を詰める事も出来るのだが、制限時間を超えてしまうと無効になってしまうので、十分な休憩を取りながら行う事でミス無く走り切ろうと言う作戦だ。


 お昼もしっかり1時間休んで足をいたわる。

 夜の6時位まで頑張って、ミス無く18セット走りきった。


 長めのお風呂に入り、浮腫むくんだ足のマッサージを行って手入れをする。

 お風呂から上がったら、夕食を食べながら明日の予定を確認する。

 まず、授業前の朝に2本走る。

 そして、朝の教室で神城さん達に謝罪をする。

 能力訓練時間に2本可能なら3本走り、放課後に2本走る。


 明日のメインイベント、謝罪の事を考えると胃が痛い。

 正直、今食べている夕食すら食べたくない。

 でも、食べないと身体が保たないのは理解しているので無理に食べている。


 部屋に戻ると和田さんが何かを編んでいた。

 私が部屋に入ったのに気づくと、顔を上げ

「あら、おかえりなさい」

 と言ってくれた。

 そう言えば、前の同室の人はそんな事言ってくれなかったな。


「ただいま。何を編んでいるの?」

 と聞くと、編んでいた物を広げて見せた。

「レース?」

 と聞くと

「そうよ」

 答えてくれた。


「すごい。

 キレイ。

 レースのフリルって、自分で編むこと出来るなんで凄いよ」

 とちょっと興奮気味に早口で言い切ると

「ふふ。ありがとう」

 と笑顔で返された。


「まだ簡単な図柄しか出来ないし、まだまだ稚拙だしね」

 と言われたが

「そんなことないよ。

 以前、挑戦した時は直ぐに糸がこんがらがってダメになったもの。

 私もこんな綺麗なレースとか編んでみたい」

 と言うと

「だったら教えてあげようか?」

 と言われたので

「是非教えて」

 と言って詰め寄ってしまった。


 その為、驚いた顔をしている。

「あ、ごめん。驚いたよね」

 と謝ると

「大丈夫よ。ほんと貴方って見た目と違って繊細なのね」

 と言われ、真っ赤になった。


「ところで道具は持っている?」

 と聞かれたので

「ごめん。持ってきていない」

 と答えると

「今度、手芸店に一緒に行きましょうか?」

 と言われ、思わず

「是非」

 と答えたが

「あ!ごめん。しばらく行けない」

 と申し訳なく思いながら訂正する。


「あ!ごめんなさい。無神経だったわね。

 じゃあ刑罰が終わったら、一緒に行きましょう」

 と理解を示してくれた。

 それどころか

「それまでは、私の予備を貸してあげる」

 と言ってくれた。


「これで刑罰を早く終わらせる理由が増えた」

 と言うと

「そうね。だから、頑張ってね」

 と応援してくれた。

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