村田 聖子の決断(4)

「え?それはどうしてっすか」

 と岸さんが言った後

「あ! それは、どうしてですか?」

 と言い直した。


 微苦笑をした厳島教育官は

「それはアイツラの立場もあるからだ。

 簡単に謝罪を受け入れれば寛容とみられるが、同時に少々の無礼なら謝れば許して貰えるという評価もついてしまう。

 かと言って謝罪を拒否すれば、それはそれで非道と評価される。


 そういう訳だから、謝罪を受ける側にも迷惑を掛ける事になる。

 だから、刑罰を与えた者に謝罪を要求していないのもその為だ。


 まあ、人として謝罪したい気持ちも分かる。

 だから止めはしないが、容易に許しが与えられると思わない事だ」

 と言われた。


「わかりました。

 私達のけじめの為にと言う事を伝えた上で謝罪します」

 と答えると

「まあ、頑張れ」

 と厳島教育官に言われ、周囲の教育官もちょっと気の毒そうな顔をしていた。


「他に何かあるか?」

 と再び問われたので

「訓練時間以外にも、ランニングコースを使用してもよろしいでしょうか?」

 と言うと

「刑を執行するのか?」

 と問われたので

「はい。

 その通りです。

 少しでも早く刑罰を終わらせて訓練に復帰したく思います」

 と答える。


「分かった。

 好きに使え。

 ただし寮の門限を守り、教養科の授業にもキチンと出席する事」

 と言われた。


「ありがとうございます」

 と言って、再び頭を下げる。

 岸さんも一緒に下げる。


 女性の教育官がやって来て

「学生証を出しなさい」

 と言われたので学生証を渡すと三村さんの元に行き、彼女の学生証を回収すると端末に持って行き何か操作後返却された。


 三村さんと合流して教育官室を後にする。


 ランニングコースに移動中に岸さんが

「折角減刑してくれるって言っていたから、減刑して貰った方が良かったんじゃないっすか?」

 と言うと、三村さんが

「恐らく二つ返事で受けると、教育官からの信頼度が更に下がったと思いますよ」

 と返され、岸さんが

「え!なんで?」

 と聞く。


「なんでって。今の私達の信頼度なんてミジンコレベルよ」

 と三村さんが言うと

「ミジンコ!!」

 と岸さんが驚きながら復唱している。


「減刑なんて分かりやすい餌をぶら下げて、私達がどの程度本気かを試されたのよ。

 村田さんが減刑はいりませんって即答したから、信頼度はダンゴムシ位になったと思うわ」

 と言うと

「どの道、まだ低くっ!」

 と反応している。


「その代わりに、ランニングコースの使用許可を求めたでしょう。

 だから、本気で贖罪を行う気があると示したから許可が下りたと思うわ」

 と言われたが、盛大に苦笑いしながら

「そこまで考えてなかったんだけど」

 と返すと

「それで良いんですよ。

 貴方は下手に考えて動くより、貴方の正義に沿って動いた方が良い結果になると思ます」

 と言われた。


「それって頭が悪いってことっすか? 人の事言えないっすけど」

 と岸さんが言うと

「頭の良し悪しではなく。

 村田さんは、考えると考え込んで動けなるタイプでしょう。

 だから、今は貴方の心に沿って動いた方が上手くいくと思うの。


 岸さんは、もう少し頭を使った方が良いわよ」

 と三村さんは、呆れ気味に言うと

「あははは、良く言われるっす」

 とあっけらかんと答える。


 ランニングコースに着くと準備運動をする。

 3人共、訓練着を着ているので着替える必要が無い。


 準備運動が終わり、ランニングコースに設置されている自動周回計測機に学生証を読み込ませる。

 一斉にスタートラインを切る。

 1周1kmのコースを5周1セット走り切る。


 5周走り終わった。

 両手を膝に置いて肩で呼吸する。

 三村さんも同じ姿勢で呼吸を整えている。

 岸さんは、地面に座り込み手で上半身を支える様にして休憩している。

 私達の1回目の挑戦は、3人共18分台で成功した。


「思った以上に、身体が鈍っている」

 と三村さんが言うと

「体力だけは、自信があったんっすけど。

 これは、ちょっと、きついっす」

 と岸さんも悲鳴を上げている。


 そういう私も、かなりキツかった。

 訓練校に入学するまでは親に連れられて走らされたのに、こんなに体力が落ちているとは思っても見なかった。


「10分休憩したら、2本目行こう。

 あんまり時間を置くと、走れなくなりそう」

 と言うと

「そうしましょう。

 今日は、どこまで走れるかを試す位の気持ちで良いと思います」

 と三村さんが言うと

「うっし。呼吸も落ち着いてきたので、いつでも2本目行けるっす」

 と岸さんも立ち上がった。


 こうしてこの日は、午前中6セット、午後6セットの計12セットの60周走った。

 流石に疲れたが、まだまだ走れる。

 両親に鍛えられたおかけだ。


 岸さんも三村さんも、まだまだ走れる様だ。

 岸さんの両親は、元陸上選手でコーチをしているそうだ。

 なので、子供の頃から英才教育を受けていた。


 三村さんのお父さんは機動隊所属の警察官で、そのお父さんと一緒に走り込みをしていたそうだ。


 この後、お風呂を済ませ夕食を食べながら明日以降の計画を練る。

 現状、15分休まないと次が走れないので、2時間で3セットのペースで走る事になったが、まだ余裕があるので朝と夜の1時間も走る時間を確保して、回数を稼ぐ事になった。


 部屋に帰った後、しっかりと柔軟体操を行ってから消灯時間前に寝た。


 翌朝、普段通りに起きる事が出来た。

 ちょっと寝坊するかもと不安だった。

 朝、洗面所で身支度をしていると、岸さんと三村さんも起きて来た。

 4人で身支度を済ませて朝ご飯を食べに行く。

 私達とは、かなり離れた席で田中さん達もご飯を食べていた。


 私の目線に気づいた岸さんが、目線を追った。

「あれ、あの4人もこの時間に食べているっすね」

 と言うと、三村さんも視線を追い4人を見つける。

「本当ですね。いつもこの時間なのかしら」

 と言った。


「あの4人は、いつもこの時間ですよ」

 と和田さんが答える。

「彼女達は、この後魔力制御訓練棟に行くんだよ」

 と私が補足する。


 岸さんと三村さんが私を見た。

 三村さんが

「それって本当?」

 と聞くので

「以前、一度だけ後をつけた事があるけど、魔力制御訓練棟に入っていたし、出てくる所は何度か見ている」

 と答える。

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