伊吹 明日香 1学期中間テスト後の日曜日(1)

 日曜日の朝。

 私は普段通り起きて、身支度を始める。

 相部屋の子は、まだ寝ている。

 起こさない様に気をつけながら洗面室に行き顔を洗い、化粧水と乳液で保湿してからカラーリップを塗る。

 正直、化粧品は持っていないに等しい。

 今まで全く気にした事もなかった。

 肌の手入れもいい加減だった。


 そんな私が気にする様になるなんて。

 ましてや同年代の異性を好きになるなんて思っても見なかった。


 だってね。

 地元の同年代の男共は、自分本位で、身勝手で、ガサツで、思いやり無いし、自分の思い通り行かないと癇癪かんしゃくを起こすし、良い所なんて全く無いし、嫌な思い出しかない。

 一時期男性恐怖症を患っていた程、大嫌いだった。


 その結果、化粧や恋愛に無関心になったのは仕方ない事だと思う。

 だから、中学の時にもっとしっかり友達の話を聞いておけばよかった。


 部屋に戻り今日着て行く服を選ぶ。

 手持ちの服は、パーカーやTシャツやデニムのジャケットとパンツ位だ。

 女の子らしい可愛い服装を持っていない。

 その事に軽くため息をつきながら彼に見られても恥ずかしくなく、カフェ月光での訓練に着ても違和感が無い服装を選ぶ。


 集合時間より少し早く着きそうだが、部屋を出る事にした。

 集合場所には、既に零士君と章君が待っていた。

 集合時間までまだ10分以上余裕があるのにと思いながら、彼らと合流して雑談をしながらバス停に向かう。


 カフェ月光で遅めの朝食を食べる。

 ここの料理は美味しんだけど、ちょっと量が多い。


 零士君が、食事をしながらマスターに先日の試験結果を話ている。

 零士君は、自分が見た事に対して自分達との違いや分析を交えながら話ている。

 私だと、彼女達が安定して長く魔力纏身まりょくてんしんを維持しているなー位にしか思わなかったなー。

 周りを見ると、OGの人達も聞き耳を立てている。


「維持時間が1時間以上で、維持限界付近まで魔力の乱れが無いとか、ベテランでもきついぞ」

 とマスターが言う。

 やっぱり、あの娘達は凄い事をしていたのを理解した。


 そして、零士君は良く見ているだなと思うと同時に、誇らしい気持ちと他の女の子を見ていたと言う嫉妬心が湧いてくる。

 我が事ながら勝手だなと思ってしまった。


 零士君の横顔を見ながら、なんでこの人に惚れたんだろうと思ってしまう。

 そして、もっと詳しく知りたいと思ってしまった。


 この前、章君に零士君の事を聞いてみた。

 そしたら、『昔から変わらないぞ』と答えが返ってきた。

 期待した答えは、貰えなかった。

 たぶん彼は、私の質問の意味を理解していないと思う。


 だから、もう一人の幼馴染の神城さんに聞いてみたいと思い、寮監に神城さんと直接お話がしたいと相談したが、取り次ぎは出来ないと断られた。


 テスト前の午前授業の時、午後は零士君達と勉強を行う事になった。

 その準備の為に寮に戻る途中で、寮から出てくる神城さん達を見つけて思わず隠れてしまった。


 人気が無い所で声を掛けるつもりで神城さん達の後をつけた。

 そして、見失った。

 確かに20m位前に居たはずなのに。

 周囲を見渡しても、隠れられる程の障害物も無い。

 本当に忽然と消えた。

 その日は、諦めて寮に戻って準備し、零士君達との訓練に合流する事にした。


 中間テスト初日にも同じ状況になったので神城さん達を尾行してみたが、同じ様に見失った。

 その日から神城さん達を尾行する人が増えていた。


 だから、翌日から尾行する事を辞めた。

 すると寮監から

「もう尾行は、辞めたのかい?」

 と聞かれたので

「辞めました。

 私は神城さんと話たいでけで、別段秘密とか探ってませんから」

 と答えると

「その方が良い。

 それに神城さんと話たいなら、周りの娘に頼めば良い」

 と言われた。

 その方法も考えたが、出来たら神城さん1人と思っていたから躊躇ちゅうちょしていた。

 でも、他の方法が無いからそうしようかな。


 だが元々、彼女達との接点も希薄だったせいもあるのだろうが、本当に接触するチャンスが無い。

 仕方ないから気長にチャンスを待つしか無い。


 すこし物思いにふけりながら零士君を見ていると、私の視線に気づいた零士君が

「どうした? 何か顔についているか?」

 と聞いてくるので

「うん。ほっぺにご飯が付いている」

 と言うと、慌てて手を顔に当て頬に付いたご飯粒取った。

「本当だ。ありがとう」

 と言って、取ったご飯粒を口に運んだ。

 その様子をまたボーと眺めていた。


 食後は、地下での能力訓練だ。

 私と章君は、魔力纏身まりょくてんしんの訓練を行い。

 零士君は、魔力纏身まりょくてんしんと魔眼の技能スキルの訓練を行った。


 零士君は、なんでも無意識の内に魔力視を使っているらしい。

 だから、魔眼の適正検査を行っていた。

 検査方法は、目に魔力を集めて、魔力を込めたインクで書かれたカードの文字を答えるものだった。

 このカードは、特定の魔力の波長でしか見えないと言う特殊なものらしい。


 ただ、この方法は既に廃れているそうだ。

 その理由は、この特定の波長に反応するインクを作れる人が居ないからだ。

 だから今は、可能性のある技能スキルを片っ端から憶えさせて、能力アビリティ化しているそうだ。

 その為、技能スキルが存在しない一部の魔眼の能力アビリティは、勝手に発露するまで分からないらしい。

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