山田 零士 ゴールデンウィーク 訓練校1年目(20)

 俺が愕然として、テレビの映像を見ながら優の指揮する声を聞いていると、現場レポーターが空を指差し、大型輸送ヘリコプターが近づいている事を叫んでいる。

 映像もそのヘリコプターを映し出す。


 無線から

『こちら、第1次増援部隊部隊長の檜山ひやま2尉以下30名。

 間もなく、現場上空に到着します』

 と言う男性の声が聞こえた。


『了解。

 3名を名古屋城周辺に配置。

 残りは、空間振動発生地である公園北部を避け、公園外縁部を囲う様に展開。

 配置人選は、檜山2尉に一任する』


『了解。

 名古屋城周辺に3名配置。

 北部を除く公園外縁部に展開します』


『名古屋城周辺の展開部隊は、文化財保護を優先せよ。

 周囲に展開中の防衛課及び警察・消防は居ないものとして事に当たれ。

 総員、敵の掃討を行え』


『了解』

 一連の会話が聞こえた後、テレビの映像には、ヘリコプターが公園の真上にいた。


『現場上空に到達。

 これより、降下可能高度まで下降開始。




 高度

 100

 90

 80

 70

 60 後部ハッチを開口

 ガッコン

 総員降下開始』


 テレビの映像には、空中で後部ハッチを開き、パラシュートを装備していない完全装備の隊員達が、次々と飛び降りる姿が映し出される。

 レポーターや現場に居る一般人達が悲鳴を上げ、俺達も固まったまま見入ってしまった。


『総員降下完了。

 後部ハッチ閉め。

 上空の民間機の牽制行動に移ります』


『了解』


 衝撃的な映像と音声が流れた後、あまりにも普通の事として処理される事実に衝撃を受けた。


 そして、映像は何事も無かったかの様に、戦闘音と爆裂音が響く、黒く塗りつぶされた公園の映像に戻った。


「しばらくは、状況の変化が無いだろうから、さっさと飯を食ってしまえ」

 とマスターが俺達に声を掛けた事で、自分の状況を思い出した。


 衝撃が大きくて食事の手が止まったままだった。

 すると章が

「優が戦っているのに、呑気に飯なんて食えない」

 と声を搾り出す様に言った。


「だからこそ、食べなさい。

 今の章ちゃんの仕事は、それしか無いわ」

 と華山さんが章の横に座り諭す。

「でも」

 と力なく章が反論するが

「零士、章。

 お前達が神城准尉と幼馴染なのは知っている。

 だが、既に袂を分かれている。

 だから、お前達が気に病む事は何も無い。


 むしろ、神城准尉の方がお前達を巻き込まない為に、袂を分かったのかも知れん。

 だから、お前達が気に病むのは、お門違いだ。


 それでも、関係を取り戻したいなら、こんな小さな事でつまずくな。

 今のお前達は、神城准尉の背中を見る事も叶わない程、隔絶した実力差がある。

 対等な関係の再構築なんて、夢物語で終わるぞ」

 とマスターが静かに言った。


 俺は、静かに昼食の残りを食べ進めた。

 章も意を決した様に食べ進め始めた。

 明日香さんは、チョビチョビと食べ進めながら

「同い年のハズなのに、なんでこんなに違うのょ」

 と呟いた。


「本当にどうしてかしらね。

 あの娘は、既に自由の大半を手放しているかも知れないわね」

 と華山さんが言う。


 俺の手が止まった。


「現場指揮官と言うのは、戦闘・状況判断・指示を同時に行う事を強いられる。

 自身も戦いながら仲間の命も背負って判断・指示する。

 生半可な覚悟ではなれない。


 そのために、他の人の何倍もの訓練を必要とする。

 自由になる時間なんて、ほとんど無くなるわよ」

 と華山さんは言い、大きくため息をついた。


「国を守るために、強く有能な能力者が必要なのは理解しているつもりよ。

 でも、有能だからと言って、少年少女を戦場に出す必要は無いと思う。

 だからと言って、覚悟を決めた人間を止める事も出来ない。

 それぞれの立場が分かるからこそ、何も出来ないこの身が恨めしい」

 と言って、華山さんは自分の両手を見ている。


 俺は、無理矢理でも食事を食べ進めた。

 章も明日香さんも、少しずつ食べ進めた。


 マスターの言った通り20分以上状況が変わる事が無く、次第に緊張感が薄れていった時だった。


『本部より指揮官へ。

 第2次増援部隊の輸送準備が間もなく完了します。

 現場到着予定は、20分後』


『了解』


『う、これは』

『空間振動?』

『クソ。でかいぞ』

『亀裂が一斉に増えた』

 一瞬で現場が騒然となった。


『空間の亀裂の大量破壊を行う。各自自衛しろ』

 と優の大声が、無線から聞こえた直後、テレビ画面が真っ黒になった。


「ちくしょう。本当に大量破壊をやりやがった」

 と店内の誰かが声を上げた。


 テレビの映像が、上空からの物に切り替わると、レポーターの緊迫した声と共に真っ黒な映像から、1つ目の巨人が抜け出てくる姿が映っていた。


「サイクロプス」

 と緊張した声が店内から聞こえた。


『こちらからの死角に空間の亀裂が残った。

 各自処理をしろ。

 デカブツは、私が処理する』

 優の指示が飛び

『了解』

 現場で戦っている隊員達は、即時に応答する。


 テレビの映像には、サイクロプスを正面から映し出している。

 そのサイクロプスは、テレビクルーの乗るヘリコプターをターゲットにした様だ。


「馬鹿。離れろ。そいつは身長の3倍以上跳べるんだぞ」

 と店内から声が聞こえた直後、サイクロプスは跳躍ちょうやくした。

 次の瞬間、画面は上空を映していた。


 ヘリコプターが回避行動と取ったのか?と思ったが、ヘリコプターに乗っているリポーターにカメラが向き、リポーターは周囲を見渡した後、大声を張り上げ

「カメラマンさん。アレだ。アレ。アレを撮って」

 と指を指す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る