山田 零士 ゴールデンウィーク 訓練校1年目(19)

 レポーターが実況している後ろで、黒く光るとしか表現現象が多数見受けられた。


 レポーターの実況を要約すると

 名古屋城に訪れた観光客を取材中に空間振動が発生した。

 私服に武器を携えた者達が現れ、魔物を倒しながら我々に避難する様に言われたので避難した。

 約15分程して、防衛課・警察・消防が到着して公園を封鎖。

 封鎖後、現場の隊員が隊長と思われる人物に突入し進言している姿が目撃されたが、今の所、動き無し。

 そして、今に至るまで、戦闘音が公園内から聞こえる。


 スタジオからのコメントでは、なぜ突入しないのかとか、市街地だから防衛を主体にしているのは当然だとか、無駄な議論をしている。

 また、3月にショッピングモールで空間振動が発生した時、魔物の被害よりも突入した防衛課による被害の方が酷かったので、現状の対応の方が良いと言う意見も出ていた。

 ただ、テレビでは、黒く光る現象については誰も何も言わない。


 そして、周囲もテレビの映像に釘付けになっている。

 俺達も食事の途中で止まっている。

 皆無言の為、テレビの音声だけが流れる。


「マスター」

 と俺が声を掛けると

「なんだ?」

 と返事が返ってきた。


「テレビに映る黒い閃光はなんだ?」

 と問うと、章と明日香さんの顔には、何を言ってるの?と言う顔になっている。

 一方、マスターの顔が厳しい物になった。


「お前には、見えているようだな。

 アレは、空間の亀裂が破壊された際に出る物だ」

 と言う。


「空間の亀裂って、空間振動の時に魔物が出てくるというやつか?」

 と聞くと

「その通りだ。ついでに教えておくが、アレの破壊は難しい事なんだぞ」

 と言う。


「難しい? 画面ではそこら中で光っているのにか?」

 と俺が聞くと、章と明日香さんもテレビを食い入る様に見ている。


「アレは異常だ」

 と言って大きなため息とつき、首を左右に振ったあと

「アレを破壊するのに、ランクCの上位者が全力で攻撃して破壊出来るかどうかと言う代物だ。

 あんなにポンポン破壊出来るものじゃあ無い」

 と言う。


「じゃあ、あそこには、それが出来る高ランクの者が居ると言う事か?」

 と言う俺の問いに

「恐らくそうなんだと思う」

 と歯切れの悪い回答が返ってきた。


「じゃあ、普通は空間の亀裂って、どう処理するんだよ?」

 と章が問うと

「アレの存在時間は、30秒から3分程度だ。

 アレを破壊するより、出てくる魔物を狩った方が楽なんだよ」

 と石割さんが答えた。


「へぇーそうなんだ。

 だったら、防衛課も投入して大勢で戦った方が楽なのでは?」

 と章が聞くと

「そう簡単なものでは無い。

 今も空間振動が続いているあの場所は、瘴気が濃い場所と化している。

 特殊な訓練を受けた者でも、2割から3割の能力低下を避けられない。

 ましてや、その訓練を受けていない防衛課の隊員など、普段の7割減、3割り程度しか実力が出せないだろう。

 その事を理解しているから、現場指揮官は防衛課の突入を拒否しているだろうな」

 と土森さんが説明してくれた。


「よし。繋がったぞ」

 と常連客の1人が声を上げた。

 すると

『本部より指揮官へ。

 第1次増援部隊の輸送を開始。

 15分後に合流予定』

 とオペレーターと思わしき女性の声が聞こえた。

 その直後、『了解』と凛とした少女の声が聞こえた。


 俺と章は、顔をしかめた。

 まさかとは思う。


 しばらく無線応答が無く。

 テレビから流れる出鱈目な説明が流れる。

 なぜ、出鱈目と分かるかと言うと、師匠達が一々ツッコミを入れているからだ。


『本部より指揮官へ。

 第1次増援部隊よりインカムのチャンネルの問い合がありました』

 とオペレーターの声が聞こえた。

『15番 以上』

 と少女の声が流れた。


『本部より指揮官へ。

 現場の防衛課より、再三の突入許可依頼が来ています。

 しかも、1現場指揮官の越権行為による依頼です。

 また、回答なき場合、独断で突入すると言う愚言を進言しています』

 とオペレーターの困った声が流れた。


『以下の警告を。

 防衛戦線を維持せよ。

 戦線を放棄した場合、反乱と見做みなし、貴君らも掃討する。

 以上』

 と一瞬の迷いも無く少女は答えた。

 その声は、間違いなく優の物だった。


「現場無線とも繋がったぞ」

 と先程本部無線に繋げた常連客が声を上げると同時に、凄まじい音量で戦闘音と爆裂音が響き渡った。

 慌てて、音量を下げている。

 その中で聞こえる優の声は、沈着冷静で、明確な指示を出し続けている。


 明らかに少女と分かる幼い声に対して

「なんで、子供が指揮をしているの?」

 と明日香さんが疑問を口にすると

「神城准尉が、現場指揮を行っているからだろう」

 とマスターが答える。


「でも、なんで?」

 と再び疑問を口にする。


「神城准尉は、後方支援型の指揮官タイプだと聞いたよ。

 たまたま現場に居合わせたから、そのまま指揮を取っているんじゃあないかね」

 と華山さんが答えた。


 明日香さんは、その答えを聞いて驚き固まっていた。


 そして俺は、誤認していた事実を突きつけられた。

 優は、俺達より先を歩いていると思っていた。

 しかし、実際は俺達の想像よりも遥か先を行っていた。

 他の人の評価を聞いても、凄いと思っても手が届かないと思った事は無かった。

 まさか、本当に手の届かない所で、自分の適正を見つけて居るなんて思ってもみなかった。

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