山田 零士 ゴールデンウィーク 訓練校1年目(18)

 翌日の朝、厚生棟の前で明日香さんと合流してバス停に向かう。

 当然、章も一緒だ。


 章の奴、厚生棟で明日香さんと合流すると

「俺、時間をずらそうか」

 なんてほざいたから、頭に1発お見舞いした。

 頭を押さえて蹲った章が

「いてぇー。なにするんだよ」

 と文句を言うから

「お前こそ、ふざけた事言って無いで行くぞ」

 と言って、首根っこを捕まえて引きずる様に連れてきた。

 観念したのか、途中から自分の足で歩いていた。


 明日香さんは、呆れた様子で俺達の遣り取りを見ていた。

 全く、余計な気を回さなくて良いのにと、ひっそりとため息をついた。


 カフェ月光で、俺と章はスペシャル・モーニングを頼み。

 明日香さんは、普通のモーニングを頼んでいた。


 食事中に、先日起こった魔力酔いの話をマスターに話した。

 すると

「誰もが通るやつだ。

 ただ、魔力中毒になりかけるまで、頑張る必要は無いからな。

 程々にしとけよ。


 それに魔力酔いは、現時点の限界を教えてくれるんだ。

 魔力酔い一歩手前で維持する訓練を積めば、効率的な訓練になる。

 頑張りな」

 と返された。

 そう言われると、そうかも知れない。


「坊主共、その前に魔力制御を鍛えて、自分の限界を図る方法を覚えてからだぞ」

 と石割さんが、忠告を言った。


「了解」

 と俺が返して置いた。


 師匠達との訓練が始まると、余計な事を考える暇が無い為、非常に集中できる。

 正直、ここ数日、色々な事が有りすぎて訓練に集中出来ていなかった。

 その事を実感させられた。


 そして章は、休憩前の訓練で、魔力の最大出力維持時間がついに20分を超えた。

 これで、章も魔力纏身まりょくてんしんの訓練に移行出来る。

 章の魔力纏身まりょくてんしんは、10時の休憩後から行う事になった。


 10時の休憩の時に、今日は午後3時で終わりにしたい事を告げた。

 理由を聞かれたので、明日、明後日の食料の購入したい事と、前回、時間が無くて、カップ麺とレトルトのご飯とレンチン出来るカレー位しか買えなかったので、食事に飽きてしまった事を告げると

「俺が若い頃は、保存食と言えば缶詰だったな。

 食パンにコーンビーフやシーチキンを載せて、マヨネーズをかけて焼いたりしたな」

「最近は、色々な物が出ているから便利になりましたね。

 寮だと冷凍食品は置いておけないから、真空パックの物なんかを探したらどうかな」

「そればっかりだと栄養が偏るから、フリーズドライのお味噌汁やスープを着けた方が良いね。

 パウチなら、色々なおかずも出ているから便利なんだけど、お湯かお皿に載せないと電子レンジで温められないからねー」

 とアドバイスを貰った。


 缶詰や真空パックは、選択肢から抜けていたな。

 それに食器があれば、もっと多くの選択肢があった事に気付かされた。

 食料の選択肢が増えたな。


 休憩を終えて、訓練を再開した。



 12時を少し超えた所で、常連客の1人が降りて来た。

 どうやら、俺達のお昼が遅くなるそうだ。


 今、お店の方には、有名人?が来店しているらしい。

 その関係で、お店が混雑してしまっているそうだ。


 これがテレビの取材とかだったら、問答無用で追い出す位、マスターはテレビ局の人間が嫌いだそうだが、今回はプライベートでの来店だから、追い出す事も出来なかったそうだ。


 それで、その有名人?とやらは、俺達は誰も知らなかった。

 今ブレイク中の芸人らしいけど、全く知らん。

 今年に入ってから、お笑いとか全く見なくなったからな。

 章も興味無くなって見ていないから、知らないと言う。

 明日香さんは、元々お笑いに興味が無いから知らないと言う事だった。


 お店に行くと絡まれそうだから、有名人?とやら居なくなるまで訓練を続行する事になった。


 結局、その有名人?とやら居なくなったのは、1時40分を過ぎてからだった。


 お店に戻ると

「お前ら待たせたな。今すぐ作ってやるから座っていろ」

 とマスターが声を掛けられた。


 俺達がカウンター席に着くと

「今居た自称人気芸人という奴が、仲間だかファンだかを12人も引き連れて来店しやがった。

 席を必要以上占拠するし、態度は横柄だし、五月蝿いし、長居はするわ。

 サインを書くから値引きしろとか馬鹿げた事を吐かすわ。

 碌でもない連中だった。

 芸人・芸能人も入店禁止だ」

 愚痴をこぼし

館山たてやま。看板作ってくれ」

 と大声を出すと、常連の一人が

「おう。任しとけ」

 と返事をした。


 マスターからお昼を貰って食べていると、お店の扉が開いた。

 入ってきたのは、常連客の一人だった。

 その常連客は、入ってくるなり

「田川。テレビを点けるぞ」

 と大声で叫んだ。


 マスターは

「檜枝。どうしたんだ」

 と呆れた感じの返事を返した。


「テレビを見れば分かる」

 と言って、壁の戸棚を開けた。

 そこには、テレビが設置されていた。


 テレビを着けるとニュースが流れていた。

 名城公園付近で、大規模な空間振動が発生して魔物が大量発生していると報じている。

 現場からのリポートでは、公園の前を防衛課の隊員達が一列に並んで封鎖している様子が映し出されている。

 問題は、その後ろの公園と思われる所が黒く塗りつぶされた様になっており、爆発音や魔物の鳴き声と思われる音が聞こえた。

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