山田 零士 ゴールデンウィーク 訓練校1年目(17)

 結局、お昼休み中一緒に居る事になった。


 ちょっとした日陰の座れる場所で、3人で能力アビリティの訓練談義を行った。

 で、例の金魚のフン連中もコソコソと付いて来ていたが、俺達の会話内容が能力アビリティ訓練内容だと分かると、コソコソと退散していった。


 割り込むタイミングを図ったていたんだと思うが、会話の内容を理解できなかったんだろうな。

 ここを離れたと言う事は、上級生を呼びに行ったと見た方が良いだろう。


 間抜けな連中は、俺達を監視する人間を置く事なく撤退したので、場所を変える事にした。

 その移動中に章の友人達と遭遇して、章は彼らと一緒に行ってしまった。

 結局、比較的人気の少ない静かな場所で、大した話もせずに昼休みを過ごした。


 昼休み明けの教室では、女子達がなんだか騒がし上に、俺を見てヒソヒソ話しをしている。


 能力訓練の時間、いつもなら俺と明日香さんは別々の部屋で訓練を行っていたのだが、一緒の部屋で訓練を行った。

 その方が、お互いを意識するからか訓練に集中出来た。


 訓練の終わりに、明日の師匠達の訓練について軽く打ち合わせする。

 行きの時刻は、前回と同じ8時のバスに乗る事を確認する。

 帰りは、前回の反省を活かし、午後3時には終わる事を確認して別れた。


 教室に戻ると、女子達が遠巻きに俺を観察している気がする。

 居心地が悪い思いをしながら放課後を待つ事になった。


 放課後、まっすぐ寮に戻り風呂に入る準備をして、章と合流して風呂に入る。

 訓練校に入った頃は、夕飯を食べてから風呂に入っていたのだが、放課後すぐの食堂は非常に混むし、飯の後に寮に戻ると、風呂に行くのが億劫になるので、先に風呂に入る様になった。

 お陰で風呂も空いているし、食堂もあまり混んで居ない。


 と言う訳で普段通りに風呂から上がって食堂に行くと、入口で明日香さんと会ったので一緒に夕食を食べたのだが、章は俺の対面に座り、明日香さんは俺の隣に座った。


 そこまでは良い。

 だが、周囲から妙に注目されるのは分からない。

 俺と明日香さんは、首を傾げるばかりだった。





 ◯おまけ:零士と明日香さんと別れた後の章の行動


「おい、見石。あいつらを放って置いて良かったのか?」

 と友人の1人と聞かれた。


「ああ、良いんだ。

 むしろ、抜け出すタイミングがなくて無くて助かった位だ」

 と俺が返すと、もう一人の友人が

「結構、可愛い子だったよな」

 と呟くので

「そうだな」

 と応えると

「クソ、もう彼女が居るのかよ。うらやましい」

 と恨み言を言う。

 もう一人は、

「爆発しろ!」

 と叫んだ。


 俺が苦笑いをしていると

「お前は何も思わないのか?」

「幼馴染だろ。抜け駆けされたんだから、悔しくないのか?」

 と迫ってくる。


「いや、特に何とも思わねえ」

 と答えると、2人は悪い顔をして

「本当の所はどうなんだ?」

「何も思わないって事は無いはずだ」

「ここだけの話しだ。俺達には正直に言えよ」

「そうだそうだ」

 と更に迫ってくる。


 俺は、ため息をついて

「俺だってイケメンが、美女をはべらしていたら、リア充爆発しろって思うけどよ。

 零士の場合だと、頑張れって言う感じなんだな。


 正直、俺が一番大騒ぎして、色々言うと思っていたのによ。

 いざ目の前でああなったら、生暖かい目で見守ってしまう自分がいてびっくりだ」

 と言って大笑いをする。

 それに釣られた友人達も馬鹿笑いをする。


「そこの男子、止まりなさい」

 後ろから高圧的な声が聞こえた。


 俺達は止まり後ろを振り返る。

 そこには、女性訓練生が4人立っていた。

 俺達に高圧的に声を掛けて来た女性訓練生だけがネクタイの色が違う。

 たしかあの色は、2年生だったはず。


 友人の一人が

「上級生が何の用ですか?」

 と不機嫌そうに返した。


 その上級生の後ろに居た女性訓練生の一人が、俺を指差し

「あの男が、伊吹さんと一緒に居た1人です」

 と言った。


 そうすると

「伊吹が何処に言った教えなさい」

 と上級生が高圧的に命令してきた。

 その異様な状況に、周囲の耳目を集めた。


 俺は

「知らねぇよ」

 と不機嫌全開で答える。


「素直に話さないなら、力ずくで良くてよ」

 と更に高圧的に命令してから

「知らねぇよ。

 俺だって、やっとの事で別れて来たのに、知るわけ無いだろ。

 バーカ」

 と大声で返してやった。


 すると案の定、上級生は頭に血が登って、直ぐにでも襲ってきそうになっている。

 そして、俺が大声で反論したものだから、更に注目された。


「お前らの様に、人の恋路を邪魔する奴は、鹿に蹴られて死んじまえ」

 と大声で言うと、周りが一斉に静まり返り、目の前に居る女性訓練生達も「え?」という顔になっていた。


 友人の一人が

「アホ。馬だ馬。鹿じゃない」

 とツッコミを入れた。


「え、マジ?」

 驚いて俺が返すと

「大マジだ。素でボケかますな」

 と大声で叫んだ。


「マジかー。キマったと思ったのによー」

 俺は天を仰いだ。


 一瞬の静寂後、大爆笑が起こる。

 正面に居た女性訓練生達は、呆然と立ち尽くしている。


「しょうがないだろう。コイツ。天然なんだから」

 と言いながら、俺の肩を叩き、女性訓練生達と反対側に押し出された。

「なんだよ。天然って」

「そういう反応が、既に天然だろ」

「そうだ。そうだ」

 お互いに言い合いながらその場を後にした。


 後ろから正気に戻った同学年の女性訓練生の

「ハッ。こうしては居られない。急いで探さないと」

「恋バナを見逃す手は無いわ。探しましょう」

「取り敢えず、あっちに行ってみる?」

「そうしましょう」

 と言う会話が聞こえた後

「ちょっと、貴方達。何処に行くのよ」

 と言う上級生の声が響いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る